連載エッセイ204:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その40 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ204:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その40


連載エッセイ201:硯田一弘

「南米現地最新レポート」その40

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「12月4日発」

今週は東の街シウダードデルエステに行って帰ってきましたが、エステ地区のエルナンダリア市で停電に遭遇。水曜日午後の短い時間ではあったものの、世界最大のイタイプ水力発電ダムを有するエルナンダリアで停電に遭うとは想像もしなかったことで少々驚きました。

しかし、金曜の夕刻アスンシオンに戻り、今度は自宅で土曜日と日曜日の両日とも早朝に停電となってしまい、最近では珍しく週に三回停電を経験しました。

一方、驚いたのは今日のUltima Hora紙電子版の水道管修理の記事です。

https://www.ultimahora.com/essap-repara-rotura-cano-y-se-normalizara-servicio-asuncion-n3037032.html

Desde la Essap informaron que repararon la rotura del caño y que se estará normalizando la distribución de agua potable a los usuarios de varios barrios de Asunción.(水道局はアスンシオンのいくつかの地区で破損した水道管の修理を完了する予定)

今住んでいるアパートでは2016年の入居以来6年間幸運にも一度も断水に遭ったことはないのですが、アスンシオンでは結構あちこちで断水は発生しているようで、昨日から上水道が止まっている地区が複数ある模様です。

去年の1月に高架橋の建設現場から突然猛烈な量の水が噴き出たことは以前も書きましたが、アスンシオン地区の水道は総延長200㎞もあって、急速な都市化と共に上下水道共に大幅な需要の増大に追い付かず、圧力の増加で管が破裂するという事態が頻繁に発生、街中の道路の至る所で水が漏れる水浸しの状態はまだ当分続くことになるようです。

こうしたインフラの脆弱性は、途上国独自の問題と思われるかもしれませんが、先進国では老朽化対策が見えざる問題であり、供給を増やす=収入も増える、という前向きな解決策とは異なり、需要が減少するなかで如何に費用の上昇を抑えながらインフラの質を維持するか?というのが先進国の重要な課題。どちらもこれからもっと大変な事態と向き合うことになりそうです。

「12月11日発」

カタールで開催中のサッカーワールドカップ、日本は善戦したもののクロアチアに敗れて16強で敗退、しかし優勝最有力候補のブラジルまでもが同じくPK戦でクロアチアに敗れたことで、なんとなく留飲を下げたサッカーファンも多かったのではないでしょうか。

昨日金曜日はパラグアイ時間正午からそのブラジルxクロアチア戦、午後4時からアルゼンチンxオランダ戦ということで、南米の多くの国で仕事が手に着かない状況だっただろうと思います。

思い起こせばカラカスに赴任して初めて中南米文化に触れた1988年、ベネズエラの国技は野球ということで、英字新聞には日本のプロ野球の結果すら掲載されているほど、スポーツと言えば野球一色の国という印象を持ちました。

ところが90年6月にイタリアで開催されたワールドカップが始まると、普段「サッカーなんて」と小馬鹿にしたような態度をとっていたベネズエラ人スタッフたちがイキナリ猛烈なサッカーファンに変身して、事務所のテレビにかじりつき、ほぼ一か月仕事にならなかったのを見て、南米におけるサッカーの魔力に感心しました。

因みにこのイタリア大会、ドイツはまだ「西ドイツ」として参加していました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/1990_FIFA%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97

93年に帰国したので、しばらくこうした熱気からは離れていましたが、2008年にベネズエラに再赴任、2010年の南アフリカは隣国コロンビアの歌姫シャキーラが唄うテーマソングと共に国中がサッカー一色になって、またまた仕事のペースが相当落ちました。

12年前、シャキーラもWakawaka若い!

https://www.youtube.com/watch?v=pRpeEdMmmQ0

そもそも8球団が優勝を競うベネズエラのプロ野球シーズンは米国大リーグのシーズンが終了した10月に始まって1月末に終わるという4カ月のお祭り、6月に開催されるサッカーワールドカップはお祭りの空白を埋めるにはもってこいの行事であった訳です。

https://www.lvbp.com/

その後も2014年6-7月のブラジル大会の時はサンパウロで開催国の熱気を感じつつ、全国各地に用意された大会会場周辺の多くのインフラ工事が中途半端なまま始まった大会の準決勝で、ブラジルがドイツに7-1という屈辱的な大敗を喫し、近所の軽食堂で試合早々の失点の際には涙を流して悲しんでいたブラジル人の皆さんが大差をつけられた後半では自虐的に「もっと点を取られろ!」とドイツを応援している様子に戸惑ったりもしました。https://aristeguinoticias.com/0807/multimedia/la-cerveza-alemana-aplasta-a-la-caipirinha/←ブラジルのカイピリーニャ杯を一瞬で打ち砕くドイツのビールジョッキ

2018年6-7月のロシア大会はパラグアイに居ましたが、永年勤めた会社を辞めて新しい会社で仕事を憶えるのに懸命だったからか、テレビ観戦をした記憶は全くなく、ネットで試合の結果を調べてみると南米勢(コロンビア・アルゼンチン・ウルグアイ・ブラジル)が決勝リーグで早々に姿を消したので、サッカーファンの多いパラグアイでもあまり盛り上がらなかったのだろうと思います。

で、今大会は8強にブラジルとアルゼンチンが残った訳ですが、ブラジルが敗退してアルゼンチンのみが準決勝進出となったわけです。

正午からのブラジル戦は勤務中で観られませんでしたが、午後4時に始まったアルゼンチンxオランダ戦は後半から自宅のテレビで観戦しました。

で、今日の言葉Países Bajosが連呼される訳ですが、1990年イタリア大会の様子をテレビで見た時、これって何処の国?と不思議に思いました。Países Bajos、直訳すると「下の国々」。なんか変な感じですよね。でも英語のNetherlandsのnetherという単語も「下の・地下の」という意味の古語なのです。もともと海面より低い国土を干拓して出来た国、小学校の教科書で堤防の決壊を防いだ少年の話があって、この国の大変さは随分前から知っていたつもりでしたが、国名そのものが”低い国”であったとは。   https://www.neol.jp/culture/95451/

詳しいことはWikipedia情報をご参照ください。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80

ベネズエラ沖のリゾート3島であるAruba・Bonaire・Curacao(通称ABCアイランド)は今もオランダ領なので、国々の一角を成す訳で、欧州の国土は41千㎢と、九州より少し大きいだけの小国ですが、かつてはインドネシアの一部も領有していた海洋国家。決して下の国という観方をしてはいけません。

実はパラグアイにもオランダ系の移民は大勢住んでいて、パラグアイ最大級の乳業メーカーLactolanda協同組合はその名の通り、酪農大国のオランダ系であることを前面に打ち出しています。また同社のホームページではサッカーのスーパースター ロケ・サンタクルス選手を起用して、パラグアイ1の人気を維持しています。

https://www.lactolanda.com.py/

オランダの国旗はパラグアイのモノに似てます。この類似性についても何か因縁があるのかも知れません。


オランダ国旗(左)とパラグアイ国旗(右)

ところで今週はペルーでカスティージョ大統領が議会によって罷免されました。

詳しい経緯は以下のニュースをお読み頂くとして、ペルーを含め直接民主主義の国は国民の大多数を占める中間層以下の人達が目先の人気投票で最高権力者を決める仕組みであり、中南米では殊更左派の候補が目先のバラマキ政策提示で集票する傾向があります。

https://agora-web.jp/archives/221209020722.html

財源もないままバラマキの口約束で権力の座に就き、そこから自信の蓄財に励むというパターンが多く、なかなかマトモな為政者が出てこないまま、政治の安定を欠くというのが、この国の最近のパターンです。ただ、鉱業や水産業等の経済界は政治との表向きの繋がりはできるだけ伏せてキッチリとした運営がされていますので、投資先としてのペルーの魅力を下げる要因にはならないと感じます。

円安が進行した最近になって漸く日本のマスコミも世界における日本の地位が相対的に低下している事実を認め始めましたが、コロナ禍が始まる前までは、ずっと日本は一番上の国、というイメージを刷り込んできたように思います。そもそも国と国、人と人との関係に上下はありません。上から目線の尊大さや、下から目線の卑屈さが相互関係をおかしくしますから、常にフラットな目で物事を捉えるように心掛けたいものです。

因みにカタール大会の中継を観て気付くのは、中国資本のスポンサーの多さ。

日本では知られていない家電メーカーやコンサルタント会社、謎の猛牛マークの会社が公式スポンサーになっており、韓国の現代自動車(+傘下の起亜自動車)と共に世界での存在感を大いに発揮しています。

https://www.fifaworldcupnews.com/fifa-world-cup-2022-sponsors-list/

https://global.hisense.com/about-hisense/partnership/hisense-becomes-official-sponsor-of-fifa-world-cup-qatar-2022

http://www.wanda-group.com/

「12月18日発」

5月末に御紹介したパラグアイとブラジルに跨る新しい橋Puente Integracionが遂に完成しました。

パラグアイ側から見た橋の夜景

https://www.lanacion.com.py/negocios/2022/12/08/puente-de-integracion-sera-inaugurado-y-obras-anexas-en-lado-paraguayo-apenas-iniciaron/

12月12日に両国の大統領が現場に立ち会って橋の完成を祝う式典が開かれることになっていたのですが、直前になって式典の延期が発表され、今後の予定は公表されていません。というのも、3年という短い工期で見事に橋が完成したものの、この橋に接続する道路の工事(Obras complememtarias)が進んでおらず、橋だけ完工しても肝心の交通量緩和や物流改善に役立つ目途が立っていないことが指摘されたからです。

https://www.abc.com.py/este/2022/12/16/evaluan-avances-de-obras-complementarias-del-puente-de-la-integracion/

3年前の2019年5月に着工した国境の橋は、Itaipu公団の潤沢な資金を元手にしてほぼ予定通りの工期で完成を迎えた訳ですが、パラグアイ側で橋と国道とを結ぶ取付道路の工事はパラグアイ国交省の予算割が明確でなかった為に大幅に遅れており、このままでは橋は出来てもそこに行きつく手段がない、という大変みっともない事態を迎えています。

黄色で示した吹き出し部分が今回完成した国境の橋、パラグアイ側では黄色の線で示した国道への赤色の新設道路での接続工事を並行して行うことになっていましたが、3年間ほぼ手つかずであったことが問題として指摘されています。橋の工事が完成したことは、多くの人達の耳目を集めてほぼ周知の事実となっているので、取り敢えず完成記念式典を執り行う必要はありそうです。来年4月の大統領選への予備選が明日に予定されていますが、国内の道路工事における舗装工事用のアスファルトの供給をMario Abudo大統領の会社がほぼ牛耳っていたことが汚職疑惑として取り上げられるなど、ここにきて政敵からの攻撃も激化しており、こうした事態にどう対処していくのか、衆人の注目が集まっています。補足:アルゼンチン側から見る橋の夜景は一層美しいそうです。

https://www.laclave.com.py/2022/12/04/iluminacion-del-puente-de-la-integracion-deleita-a-residentes-de-las-tres-fronteras/

もうひとつ補足記事。この橋を繋げられる国道2号線(上の地図では7号)ですが、アスンシオンから128㎞から137㎞の地域にあるCoronel Oviedoの迂回バイパスが完成、今日から通行可能になるそうです。こうなると聖地巡礼のCaacupe、その先のItacurubiだけが対面通行部分となる訳ですが、この両区間の工事も順調に進んでいますので、これらの時間と予算が橋の周辺開発に振り分けられれば、案外早いタイミングでIntegracion大橋の問題も解消するかもしれません。https://www.ultimahora.com/se-habilita-los-casi-10-kilometros-circunvalacion-coronel-oviedo-n3039148.html

「12月25日発」

今日12月24日はクリスマスイブ、既に日本は25日のクリスマス当日ですね。私事ですが、6年半生活したアスンシオンを離れて、パラグアイ第二の都市であるCiudad del Este方面に来週引っ越します。方面、というのは厳密にはエステ市ではなく隣接するHernandarias(エルナンダリアス)市という、世界最大のイタイプ水力発電ダムを有する街への引越だからです。そのItaipuダムまではクルマで15分、僅か10㎞の距離。そして世界的に有名なイグアスの滝まではクルマで約1時間、40㎞のところ。

エステ市というのは、日本に例えると大阪の様な商都で、世界中からイグアスの滝観光でやってくる人たちが、買い物目当てで訪れる元祖インバウンドで稼ぐ街。人口は僅か30万人ですが、HernandariaやPresidente Franco等の周辺都市の人口を合わせると100万人を超す規模となり、滝観光のメッカであるブラジル側Foz do IguacuやアルゼンチンのPuerto Iguazuも含めると、大阪と京都を足したような、南米では稀有な大経済圏であることが上の地図からお分かり頂けると思います。

アスンシオンはアルゼンチンとの国境とは言え、向こう側の町(というか村)Clorindaはアルゼンチン人ですら殆ど誰も知らない超田舎町。国境を意識させるのは、パラグアイ側で売られているペットボトル入りの安いアルゼンチン産ガソリンだけ。一方エステ市と経済圏を共にするブラジルFoz・アルゼンチンPuertoの三市は往来の数ではコロナ前で年間200万人と、アスンシオンの二倍の人数が行き交う要衝地域と言えます。その意味でも、日本からの投資を呼び込むには魅力的な拠点となることは間違いありません。

2008年二度目のベネズエラ駐在開始から14年、南米生活も来年で通算20周年を迎えます。この引越を機に、益々日本との関係を強化できるように頑張ります。2022年最後のパラグアイの言葉は、アスンシオン発信の最終版ともなりますが、ご愛読いただいた皆様が素晴らしいクリスマスを迎えられること、来る2023年が素晴らしい年となることを祈念して、引越荷物の纏めに取り掛かることにします。

10年前=2012年6月のMudanza(引っ越し)に関するベネズエラの言葉をオマケに付けます。

いよいよ今回のベネズエラ駐在も、あと一週間を残すのみとなりました。家の中は引越し荷物が山積みになっています。元々はベネズエラの魅力をお伝えし、ベネズエラ・ファンを増やそうと書き始めた本文も、逆に治安の悪さやモノ不足など、読者の不安を煽るような内容が増えていることに気付き、反省しています。ただ、どんな状況に陥ろうと、素晴らしい自然や欧米へのアクセスの良さ、人々の寛大さといったこの国の持つ魅力や優位性は揺るがないので、是非これからもベネズエラ・ウォッチを続け、いつかまた帰って来たいと思っています。

一方で、現体制下では商行為や為替の移動に関する当局の管理が益々厳しくなり、引越しに際しても、船便では港の税関での審査と称して貨物が3-4ヶ月遅滞し、さらにその間にコンテナの中身が盗まれるという事態が常態化し、航空便以外の荷物の搬出は事実上不可能な状態に陥っています。

今日の体制側新聞Ultimas Noticias紙のトップニュースとして取り上げられているのが、「Aerolíneas dicen que no tracalean con cupo Cadivi(航空会社はCADIVIの割当でのインチキを否定)」というニュース。これはどういうことかというと、ベネズエラ国民一人当たり年間3千ドル割り当てられた通貨交換権利(この枠以内でBsF.4.3/US$での外貨購入が出来る)を使って、航空会社が旅客(を装った市民)から航空券代金の購入を請け負い、それがキャンセルされたことにしてドルの割当だけを確保する、という日本人には説明しがたい脱法行為が行われた疑いが、航空会社に掛けられている、というニュースです。

ベネズエラは20世紀初頭に発見された石油資源や、その後発掘・開発された金属資源等の豊富な地下資源の存在により、「あくせく働かなくても食べられる国」になってしまい、政府の仕事は如何に国民を楽しませるか?ということになっています。(その意味で、チャベス大統領は素晴らしいエンターテイナーです。)しかし、享楽的生活が100年間国民に染み付いた結果、作って外に売る収入よりも、外から買ってくる支出が常に多い経済になっていることはこれまでも書いてきました。

この為替管理は、そうした無駄遣いを減らす為に導入された外貨使用の制限制度なのですが、制限を強いる政府自身が必要の無い武器やインフラの整っていない衛星などの購入により多くの外貨を使うので、国内での外貨の獲得は益々難しい状況に陥り、個人ベースで売買される自由市場での為替レートは時として公定レートの二倍となっています。そこで、こうした合法性を保ちつつ、実際には本来の目的に沿わない形で外貨を交換する方法が発達してきているという訳で、これを規制する為に、また可笑しな法律が制定され、経済は益々混乱を来すという負のスパイラルに陥り価値になる訳です。

既に、ベネズエラでの外国旅行用航空券の購入には様々な制限が加えられ、昨年までは北米に行って、そこから南米の別の国に行き、その後帰ってくるというチケット発行が今年は出来なくなり、態々一旦ベネズエラに戻って別の出張を仕立てる、という時間も体力もおカネも無駄になる動きしかとれなくなってきています。

また、空港ではひたすら増え続ける中国人が営業目的で持ち込む安価な商品に課税しようと、見た目に区別のつかない日本人も巻き込んで滅多矢鱈に課税されるインチキ税関吏が大勢いて、入国の時は何時もドキドキしながら税関の設けたX線検査機を通すことになっています。

ベネズエラのこうした混乱は、必ずしも昨日今日始まった話で無く、前回の駐在の時にも多かれ少なかれあった訳ですが、政府の管理能力は低下の一途を辿っているので混乱に拍車が掛っているのは間違いありません。しかし、そうした混乱が未来永劫続く訳でもないことは、政治的・経済的に立派な成功を収めている隣国の例を観れば明らかです。

ところで、少し前に新聞電子版で見つけた新しい表示。天気図に見立てて全国のインフレを示す地図。全国的にインフレでhttp://www.eluniversal.com/economia/120519/indice-nacional-de-precios-al-consumidor-por-ciudad

と、ここまで書いたところでインターネットへの接続が不安定になってきました。いつまで繋がっているか判りませんので、今週はこの辺で失礼します。Hasta proximo!(また次回!)