連載パナマ・レポート32:ルベン・ロドリゲス 2022年12月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート32:ルベン・ロドリゲス 2022年12月分


連載パナマ・レポート33: ルベン・ロドリゲス 2022年12月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I.政府

A.採掘権に関する交渉決裂

 コルティソ大統領は、12月15日に、国民への演説で、カナダのFirst Quantumの子会社である鉱業会社のMinera Panamáの採掘権に関する交渉が決裂したため、採掘の停止を命令したと発表した。1月にパナマ政府が、Minera Panamáに対して、採掘のコンセッションを更新するため、新たな契約を提供し、ロイヤリティーは売上総利益に応じて、12%または16%とされ、3億7500万ドルの最低ロイヤリティーと規定する新たな契約を提供した。さらに、Minera Panamáは所得税免除が廃止され、25%の所得税を払わなければならないとされた。また、契約提案では労働者の保護、環境保護強化も規定されていた。

 1月17日に、Minera Panamáは、政府の提案を承諾すると発表した。契約の詳細に関する交渉が一年間にわたって行われたが、Minera Panamáが契約に署名しないため、政府が、12月15日零時までの締切期限を決定した。交渉は15日の朝まで継続し、午前6時にMinera Panamaが、新たな契約提案を提供した。提案された契約内容は発表されていないが、政府は、契約提案が変わったため署名を断ったと述べている。

 これに対してMinera Panamáは、政府の提案を承諾すれば、ラテンアメリカにおいて最も高いロイヤリティーを払うこととなり、権利保護に関する措置についての意見が一致していないと発表した。交渉決裂によってMinera Panamáが直ちに営業を停止することとなり、政府が採掘作業を管理することが分かった。12月15日に営業停止のニュースを受け、トロントで登記されているMinera Panamáの株が約15%下落した。Minera Panamáは1997年の法律によって採掘権を確保したが、最高裁判所の2017年判決では、その法律は違憲だと判断された。

さらに、12月24日に、Minera Panamáは、パナマに対する二つの仲裁手続きを開始することがわかった。一つ目は、契約違反を理由として行われる。しかし、1997年の法律によって締結された契約では、憲法に関する紛争は仲裁手続きの対象外と明記され、First Quantumの主張は妥当でないという意見がある。二つ目の仲裁は、パナマとカナダが結んだ自由貿易協定に基づいて、世界銀行の投資紛争解決国際センターで解決される。

また、最高裁判所判決が確定された後、Minera Panamáが法的な根拠なき採掘作業を継続したため、停止命令の発令までの利益はパナマ政府に払わなければならいという意見もある。

II.経済

A.国際通貨基金の評価

 国際通貨基金の代表は、パナマの経済的な現状及び復帰を把握するため、12月にパナマを訪問した。アレクサンダー経済財政相は、国際通貨基金のベイカー氏と対談し、パナマの経済的な状況を分析した。政府が、2022年のGDPは前年同期比6%から6.5%増加すると予測して、パンデミック前のレベルに復帰できると伝えた。また、国際通貨基金は関税システム改善についての報告も受けた。

 政府の前向きの予測に対して、アメリカ格付け機関のムーディーズは、2022年のGDPは7%成長するとし、2023年4%のGDP増加を予測している。しかし、トクメン国際空港、パナマ運河局、電力機関ETESA、高速道路局の債券を「安定」から「ネガティブ」に変更した。

B.賃金上昇

イギリスのPwCコンサルティング社、2021年11月から2022年11月にかけてパナマでの賃金は平均として3.6%上昇している発表した。管理職の賃金は4.2%、その他の職務の賃金は、3%から3.6%上昇した。これに対して、2020年から2021年における上昇は管理職1.6%、その他の職務は、3.3%であった。PwCの報告によると、パナマは競争市場であるため、賃金上昇の傾向が継続している。

他方、賃金上昇にもかかわらず、物価高騰によって消費者の負担が増加している。食品・日用品の販売データトラッキングを行っているNielsen IQの報告によると、2022年1月から9月にかけて個人消費支出は11.3%増加し、物価は1.9%上がった。また、2021年1月から9月の間に、最低限必要な食材(canasta básica de alimentos)の価格は0.3%が上がったが、2022年同期2.9%増加した。報告は、物価高騰の他、利率とガソリン価格引上げによって消費者信頼感指数は減少する傾向を示している。