日本国憲法第9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威喝又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。..」と規定するが、憲法で軍隊を持たないと宣言している国は日本が唯一ではない。パナマ憲法305条は「パナマ共和国は軍隊を保持しない。すべての国民は、国の独立と国土を守るために武器を取ることが求められている。」とし、隣国コスタリカの憲法第12条では「常設の組織としての軍隊は禁止する。 …米大陸内の協定および国内防衛上のためにのみ軍隊を組織できる。」とある。
本書は、東京新聞記者がもうすぐ中学に入る娘に、日本とならんで「平和憲法」を持つパナマとコスタリカを訪れた時の体験を基に議論する形を取っている。パナマでは、運河が返還された後の市民や識者の意見を聞き、米国の援助と貿易優遇措置に依存していること、米国から自立できないという屈辱感をもちつつも、現実に適応していることを知る。コスタリカは、予算を軍事費ではなく教育、福祉に充て、中米では最も政治が安定している。“武器を持たないことが最大の武器”と「平和の国」「環境問題先進国」「人権の国」をことあるごとにPRし、そのことで周辺の国を牽制している。「平和憲法」を最大の防衛手段とする強かさをもっているが、これは小国だから実現出来たことは否定できないし、ニカラグア人の侵入や治安対策への不安、その根幹にある貧富の格差など現実の課題がある。
著者は、日本、パナマ、コスタリカが軍隊なしで平和を保てたのは、背後に米軍が控えていたからであり、日本は無抵抗主義を通せば国の消滅になるリスクを全国民が一致できない以上、安全保障のシステム作りに力を注いだ方が現実的との結論を出し、その私見を述べているが、「“軍隊を持っていないから素晴らしい国”と簡単に結論を出してあとは何も考えないというのではなく、それによる不安、矛盾点など良い点、悪い点も見てどうするのかを考える旅」にしたいという本書の視点は、単に字面だけで「平和憲法」を有り難がる論調よりは説得力がある。
(明石書店230頁2007年9月1800円+税)