『ハイチの栄光と苦難 —世界初の黒人共和国の行方』 浜 忠雄 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ハイチの栄光と苦難 —世界初の黒人共和国の行方』 浜 忠雄


西半球でアメリカ合衆国に次いで二番目に独立国となったのが、カリブ海の黒人の国ハイチであることはあまり知られていない。しかし、一人当たりGNIが450米ドル(2005年)に過ぎないラテンアメリカで最も貧しい国であり、これまでも現在も政治混乱が続いていて、ブラジル軍を中心にした国連安定化ミッションが治安の維持に当たっている。

コロンブスが「カリブ海の真珠」と讃えた美しい島ハイチは、旧宗主国フランスの支配下で砂糖とコーヒー生産により繁栄し、フランス革命に触発されて黒人奴隷解放と1804年のラテンアメリカで最も早い独立を勝ち取った栄光の歴史があるが、実はフランス政府に独立を認めてもらう代償に巨額の賠償金(新生ハイチ政府の10年分の歳入額に相当)支払いを強いられ、この支払いが後々大きな負担になっていた。植民地時代からのモノカルチャー産業構造は、プランテーション・システムが解体し小土地所有・中小資本化した後も引き継がれ、ブラジルやジャマイカとの砂糖、コーヒーとの国際競争に後れをとった。また、世界最古の黒人共和国も、フランス語を使い、カトリックを奉じるムラート(黒人に白人の血が混ざった混血)が、クレオール語を日常に用い、ヴードゥを信じる90%を占める黒人の上に立ち、国民的統合が欠如した政治、経済、社会的衝突が続く不安定な状況が続いている。

フランス史の研究者としてハイチ史に興味をもち、『ハイチ革命とフランス革命』(北海道大学図書刊行会 1998年)、『カリブからの問い —ハイチ革命と近代世界』(岩波書店 2003年)の著書もある著者が、現代のフランスとの過去の克服、ハイチによる賠償金返還と植民地支配に対する補償問題に至るまでの問題を含めて、「ローカル」と「グローバル」の複眼的な視点からハイチを中心にカリブ海の現代に至る略史を解説している。

(刀水書房151頁2007年12月 1600円+税)