ジャガイモは、南米原産でスペイン征服者によって旧大陸に伝えられて飢饉を救い、貧者に欠かせない食糧となった。2008年は国連が定めた「国際ポテト年」であり、ジャガイモの重要性をあらためて訴える催しが世界各地で開かれる。中日新聞の編集委員である筆者は、これまで世界のあちこちで見聞きした出来事からジャガイモに関心をもち、「ジャガイモを探す旅」を思いついた。アンデスの先住民にとって重大な食料以上の意味があったペルー、ジャガイモの大規模病害により米国への移民が急増したアイルランド、貧困層の命の綱であったドイツ、ロシア、そして日本では明治初期の開拓民が生存の糧とし、やがて男爵イモを生んだ北海道はじめ全国各地を訪れた。
ティティカカ湖のほとりを原産地とするジャガイモは、インカ帝国を支えた食べ物であったが、征服者によって欧州にもち込まれ、痩せた土壌、寒冷地でも育つジャガイモは次第に広まっていった。アイルランドでは過酷な英国支配下で農民が頼る食料となっていたジャガイモに1845年疫病が発生し、大飢饉に陥った。これにより多くの人が故郷を捨てて米国に移住したが、その中にケネディ一族もいて、後に家系から米国大統領を出すことになる。18世紀後半に英国で始まった産業革命で生じた労働者の食料もまたジャガイモが大きな役割を果たしたが、これは日本の近代化でも同じだった。欧州での革命、世界大戦などの戦争の前後の混乱の中でも、ジャガイモは人々の命の糧であったことを、本書を分かりやすく解説している。
(中央公論 中公新書243頁2008年1月840円+税)