『スペイン語で綴る土佐日記』 紀 貫之 伊藤 昌輝、エレナ・ガジェゴ・アンドラダ共訳 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『スペイン語で綴る土佐日記』 紀 貫之 伊藤 昌輝、エレナ・ガジェゴ・アンドラダ共訳


『土佐日記』は平安時代前期から中期にかけての貴族・歌人であり、『古今集』の編纂者でもある紀貫之によって書かれた。土佐守としての4年間の任期を終えて帰京するまでの55日間の船旅の模様を綴った日記文学である。しかし貫之個人の記録ではなく、あくまでも前土佐守に仕える女房の旅日記という体裁をとっている。貫之は前代未聞の「和文・仮名づかい」を達成したことにより、日本の女流文学に多大な影響を与えるとともに、日本語の将来を変えたといっても過言ではなかろう。
貫之は土佐在任中に庇護者のすべてと愛児を失い、救い難い喪失感に苛まれながら帰京し、彼の心は過去への悔恨と将来への危惧で責め苛まれていたようだ。その鬱屈した心情を晴らすためにも誰かに語りかけねばならなかったと思われ、それが『土佐日記』となったとも考えられよう。また、作者が最も描きたかったことは、旅という非日常的時空で繰り広げられるさまざまな人間模様でもあったに違いない。スペイン語・日本語バイリンガルシリーズ第9弾。

〔訳者 伊藤 昌輝〕

 (大盛堂書房 2022年12月 216頁 1,800円+税 ISBN978-4-88463-129-1)
 〔『ラテンアメリカ時報』 2022/23年冬号(No.1441)より〕