『池上彰の世界の見方 中南米 -アメリカの裏庭と呼ばれる国々』 池上 彰 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『池上彰の世界の見方 中南米 -アメリカの裏庭と呼ばれる国々』  池上 彰


NHK出身で国際問題の解説者、フリージャーナリストとして活躍している著者が、2022年3月に都立新宿高校で生徒と質疑応答をしながら行った中南米概論の講義をまとめたもの。欧米に従属させられ植民地となり、独立後もメキシコはスペイン支配時の領土の約半分を米国に奪われたこと、ソ連の核兵器持ち込みをめぐるキューバ危機の後1967年にはラテンアメリカ・カリブ核兵器禁止条約締結によって中南米での核の脅威がなくなったこと、米国が運河建設権を得るためにコロンビアからパナマを独立させるなど「米国の裏庭」化してきたことなどを歴史・地政学から概述した後、現在は中国が中南米への投融資を増やし貿易の相互関係を拡大させていること、長く対立していたアルゼンチンとブラジルが和解して接近してきたこと、ブラジルでは軍政、左派の労働者党政権の後「ブラジルのトランプ」ことボルソナーロが大統領となり、2022年10月の選挙では再選されず労働者党のルーラが当選したことまで言及している。最後に日系人の関わりについて米国での「日本人排斥法」以降ブラジル等への日本人移民が増大し、第二次世界大戦終了後にブラジルでは「勝ち組・負け組」抗争があったこと、ペルーにおいてはフジモリが大統領になったこと、日本に帰ってきた日系人の受け入れ問題に至るまで、要点を分かり易く解説している。
米国が中南米各地やハワイ王国併合で行ってきた干渉や圧力の数々とその時の理屈づけは、現在のロシアによるウクライナ軍事進攻での姿と重なるとの指摘は当を得ている。

〔桜井 敏浩〕

(小学館 2022年12月 240頁 1,400円+税 ISBN978-4- 0938-8871-4)
〔『ラテンアメリカ時報』 2022/23年冬号(No.1441)より〕