【季刊誌サンプル】新しい左派政権は変化をもたらすか? 総論 村上 勇介(京都大学 教授) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】新しい左派政権は変化をもたらすか? 総論 村上 勇介(京都大学 教授)


新しい左派政権は変化をもたらすか? 総論

村上 勇介(京都大学 教授)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2022/23年冬号(No.1441)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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特集 新しい左派政権は変化をもたらすか? 総論 村上 勇介(京都大学教授)

問題の所在
今日のラテンアメリカにおける左傾化については、1 年前の本誌(「ラテンアメリカは再びピンク・タイド化か?」2021/22 年冬号No.1437)でも特集が組まれた。そこでは、今世紀初頭の左傾化の再燃か、投資環境劣化の悪循環に陥りつつあるのか、という関心からであった(小川2022)。本論は、それ引き継ぎつつ、構造的な点をより重視した分析を行う。具体的には、まず左傾化の実態を再確認し、近年、左派政権が誕生している原因ならびに昨今の左派政権が直面する課題について考察する。本特集では、前世紀末に全盛だった新自由主義(ネオリベラリズム)に対する姿勢から左派を定義する。
新自由主義は、国家の役割を縮小し、市場原理を徹底させる経済を目指すものである。つまり、新自由主義路線の見直しやそれからの脱却を主張する勢力を左派とする。左派をめぐる議論では、政権に就いての実践、また特にアメリカ合衆国に対する点を含む外交政策、という問題もあるが、ここでは単純化するため定義には含めない。

左傾化の様相
表1 は過去5 年間の大統領選挙の結果を示したものである。これをみると、ここ3 年の間に左派政権が増加していることがわかる。確かに、今世紀初頭の左傾化で急進派の一つだったエクアドルや、内戦時のゲリラ勢力が穏健左派となって政権に就いていたウルグアイとエルサルバドル、半世紀以上にわたる民主主義を支えた既存政党に代わる新たな左派勢力が2014 年以降政権を担ってきたコスタリカなどでは、左派政権に対する批判から「右傾化」がみられた。だが、全体としては、左派政権の誕生に印象づけられる。特に、2018 年のメキシコに次いで、21 年にペルー、チリ、ホンジュラス、そして22 年にコロンビアと、今世紀に入って新自由主義路線の継続が主流だった国で、その見直しを求める政権が誕生したことがその印象を強くしていることがあろう1。
他方、今世紀初頭の左傾化と比べると、左派政権の数がかなり増えた、という印象があまりない。それは、「出発点の違い」に起因するといえる。図1 は今世紀のラテンアメリカ20 か国の毎年の左派政権の数を示している。今世紀初頭ではキューバなど数例から増加したのに対し、近年は一定数の左派政権が存在している状態からの増加であることがわかる。一定数の左派政権の存在は、2010 年代に入って政権の実績や汚職などで南米で左派政権が交代(「右傾化」)した時期に、中米での事例が継続したことによる。中米カリブ地域では、1980 年代の中米紛争の影響から、新自由主義改革と民主主義の政治が本格化するのが南米よりも10 年ほど遅れ、1990 年代後半になってからで、左派の抬頭も2010 年前後と少し時期がずれた(Murakami y Peruzzotti 2021: 16-19)。エルサルバドルとニカラグアでは内戦時のゲリラ勢力が左派政党となり、前者では2009 年から18 年まで政権に就き、後者では1979 年から90 年までの革命政権で国家再建委員会議長や大統領を務めたD. オルテガが2007 年に大統領に返り咲き、その後、権威主義化しつつ政権に居座り続け、再選から現在、4期目にある。コスタリカで2014 年に既存ではない新たな左派政党が政権に就いたことは前述した。いずれにせよ、近年、左傾化がみられることは事実である。表1 と図1 に従えば、2010 年代に入って