EHM(エコノミック・ヒットマン)とは、世界銀行やUSAID(米国国際開発庁)など、国際援助機関の資金を開発途上国が借り入れて開発プロジェクトを実現出来るように、プロジェクトの企画、実施計画立案、実施妥当性調査などを行うコンサルタントとして活動するエコノミスト、技術の専門家だが、実は巨額の国際融資の必要性を裏付け、大規模プロジェクトを通じて所属コンサルティング企業や他の米国企業に資金を環流させるとともに、融資先の国を巨額債務で破綻させ、永久に債権者(米国やその主導する国際機関)の言いなりにならざるを得ない状況に追い込み、米国による軍事基地の設置や資源の獲得、その意向に合った国連での投票などにおいて有利になるようにする工作員を意味する。
著者は、米国の国際的なコンサルティング企業の有能なエコノミスト、経済・地域計画の専門家として、チャールズ・T・メイン社によるインドネシアでの電力プロジェクトを手始めに多くの途上国で手腕を発揮した。ラテンアメリカでは、パナマ、コロンビア、エクアドルも舞台になっていて、開発途上国の指導者や政府を説得して大規模プロジェクトを実施させ、そのための借り入れ資金で借金漬けにして、米国の思いのままに操れるようにする...という筋書きを仕組んできたが、良心のとがめから命がけでこれまでやったことをバラしたというのが本の惹句である。
債務累積国の債務救済にあたって、IMF、世銀がその条件として突きつける経済・財政改善策はワシントン・コンセンサスという言葉があるが、それら国際金融機関が出資比率や主要幹部の人事を通じて米国政府の影響下にあることは確かであり、またこういった国際援助で採り上げられたプロジェクトや外資導入が、その国の施政者に近い一部の者の利益になっただけで、国民が受益することはないといわれる事例は数多く見られるので、著者のいうEHMの介在もさもありなんと思わせる。また、米国歴代政権の重要閣僚に世界的なエンジニアリング企業であるベクテル等大企業経営者が出入りしていることや、ブッシュ一族とエネルギー産業との深い関係、近年のアフガニスタン、イラク戦争やベネズエラのチャベス大統領との対峙についても触れていて、大いに興味深い国際政治ノンフィクションである。
(古草 秀子訳東洋経済新報社381頁2007年12月 1800円+税)