千代 勇一(帝京大学 准教授)
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特集 新しい左派政権は変化をもたらすか? 混迷から自壊へ、そして再生は可能か? ─ペルー カスティージョ政権 村上 勇介(京都大学教授)
既視(デジャブ)感?
上中間層と下層ならびに首都リマを中心とする比較的発展した海岸地域(コスタ)と発展から取り残されたアンデス高地(シエラ)という支持層の対称性を明らかにした選挙過程、少数与党による厳しい政治運営、政府と議会の間の対立が激化する中で高まった大統領罷免の可能性、そして大統領自らその立憲的基盤を崩した「自主クーデタ(autogolpe)」。恣意的ながら、主要なアクターとその勢力の強さ、ペルーが直面する課題、クーデタの帰結、国際環境
などの相違点を度外視して、権力をめぐる対立関係に焦点を合わせると、ペドロ・カスティージョ政権を生んだ2021 年の選挙過程から22 年12 月の「自主クーデタ」までの展開は、アルベルト・フジモリが当選した1990 年の選挙から憲法停止措置を発表した92 年4 月までの過程を彷彿とさせる。
本論は、カスティージョ政権が誕生した政治状況を改めて確認した後、発足から自壊までのカスティージョ政権の混迷した16 か月余りを振り返る。最初の作業は、新たに発足した後継政権を含め2020 年代のペルーが直面する政治的課題を明らかにすることでもある。
カスティージョ政権については、本誌でも、岡田(2021)や中沢(2022)が本論とは異なった問題設定と視点から分析を行っている。前者は、左派の程度という関心、そして実施される政策や改革という面も含めた本特集とは異なった定義から、カスティージョ政権初期の動向を分析し、その持続性に疑念を呈した。後者は、その疑念を裏付けるその後の展開を示し、原因として都市と地方の格差ならびに小党分裂化を指摘し、特に前者を強調した。本論は、そうした論考を踏まえつつ、ペルーの宿痾ともいえる小党分裂化が2010 年代後半から更に進んでいること、そしてそれに社会の分極化という傾向も加わっていることを重視する。
2020 年代ペルー政治の初期条件
1980 年の民政移管以降という長期のペルー政治の傾向の中で、2010 年代後半にそれまでと比較して悪化している点が二つある。一つは小党分裂化である。図1 は、民政移管後の大統領選挙一次投票での1 位と2 位の候補の得票率の合計ならびに議会選挙で議席を獲得した政党数を示している。上位の大統領候補の集票力は、前世紀よりは今世紀の方が低く、2021 年の選挙では、前世紀の水準の半分程度に低下している。他方、議席を獲得した政党数は、1980 年以降徐々に増加してきたが、同じく2021 年の選挙では前の選挙の6 から10へと増加した1。図1 は大統領選挙と同時の議会選挙の結果をみているが、2020 年1 月には任期途中での特別議会選挙が実施されており、その時の議席獲得政党は9 と既に増加していた。つまり、小党分裂化の傾向が強まったのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍の前からと考えられる。
その点を図2 の有効政党数という別の指標の変化_