北米の日系人たちは、第二次世界大戦中に強制収容という苦い経験から、戦後は日本人町といった民族集団居住地区は偏見を煽り人種差別の対象になりがちになることを怖れ、分散して住んでいる。そのため北米の研究者の間で「ディアスポラ」という概念が日系人コミュニティに当てはまるか論争が起きている。他方、現在北米で進んでいるアジア系アメリカ人研究の中でしか日系人研究が行われ、北米以外の国に住む日本人、日系人に焦点が当てられない、日系アメリカ人研究ではあっても日系人研究ではない状況になっている。
本書は、アジアの移民先駆者の起源、日本社会から移民が出て行った歴史、日本人移住の事例として満州、フィリピン、ブラジル、カナダ、ペルー、ボリビアでの歴史と現状を考察し、日本に回帰した日系ブラジル人、シンガポールで働く日本人女性を取り上げ、各地域で多様な現実に直面していく中で、新たに創られ変容していく文化的アイデンィティを、17人の研究者が分析している。
(新泉社2008年4月412頁4600円+税)