2008年はちょうどキューバ革命が事実上勝利をおさめて50年、フィデル・カストロと並び称される英雄チェ・ゲバラがアルゼンチンで生まれて生誕80年にあたる。ゲバラがボリビアで処刑されてから41年経つが、いまなお崇拝者が多いその人となりを、二番目の夫人が半世紀の沈黙を破って初めて明らかにしたのが本書である。
自身の生い立ちからゲバラとの出会い、結婚、革命成立にともない政府の要職に就き多忙を極める夫との家庭生活、ゲバラが1965年盟友フィデルに「別れの手紙」を残してコンゴへの旅立ち、1966年にボリビアに渡って1年後に39歳で殺害された後、国会議員を務め、チェ・ゲバラ研究センターの所長に就き、本書を纏めるに至るまでの追想を綴っている。
ゲリラ戦の最中からゲバラの最も身近にいた一人であり、ゲバラの求愛に彼女は初めは気がつかなかったこと、4人の子への子煩悩ぶり、最初の妻とその間の娘の来訪、ゲバラがキューバを去ってコンゴでの闘争を行い挫折した際にもタンザニアとプラハでフィデルの配慮でつかの間の夫婦の再会があったことなど、ゲバラの私生活の一端を知る上で興味深いエピソードも多い。
彼女自身は革命運動家として、ゲバラの秘書的な存在として、妻として母として、夫の死後は男性優越に対して女性の権利を主張する政治家としても活躍したが、キューバ女性の半生記の中にゲバラ、フィデルのこれまでの伝記や評論に見られなかった人物像、人間性が語られていて、あらたな史料になる。
キューバの専門家として多くの著書、訳書を出している訳者の行き届いた訳注もあり、礼賛や政治的信条からの評伝が多いゲバラ関係書とは別に、あらためて伴侶が語る理想や愛に殉じたゲバラの生涯を読み返すのもよいだろう。
(後藤 政子訳朝日新聞出版2008円5月327頁1900円+税)