『アメリカ帝国のワークショップ—米国のラテンアメリカ・中東政策と新自由主義の深層』 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『アメリカ帝国のワークショップ—米国のラテンアメリカ・中東政策と新自由主義の深層』


米国は第二次大戦後共産主義封じ込めの名の下にブラジル、チリ、アルゼンチンでクーデタを奨励してきたが、合衆国が直接的な植民地主義でなく、域外の諸国を統治する超領域的帝国としての経験を大規模にしてきた地域こそラテンアメリカだったのである。1980 年代にはグアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアで残忍な「低水準」戦争を行わせた。時の政権と軍事優先主義者、軍事産業からキリスト教福音派、自由市場主義者、ナショナリストの同盟が最初に結びついたのが、レーガン政権下での中米政策であり、それは今ブッシュ政権による「テロとの戦争」に突き進み、中東—特にイラクで行われていることの予行練習だったと理解される。

著者はニューヨーク大学で中米史、ラテンアメリカ史を講じる優れた歴史家だが、米国の外交政策とその意思決定の背後で、政治家、政府・軍事関係者だけでなくキリスト教のニューライトや市場経済主義者なども大いに影響を及ぼしていることを、チリのピノチェト政権の分析で明らかにしている。

現代ラテンアメリカの新しい世代の“ 左翼” 政権には、例えばベネズエラのチャベスとチリのバチェレの如く多くの相違がある。しかし、それぞれの政治スタイルや政策は異なっていても、「米国の裏庭」状態を弱めるために地域統合を前進させ、投資資源を米国以外に多角化し、成長だけでなく公平さを促進する経済政策などは共通していると見られるこ

との背景を知るに、本書の緻密な分析は極めて重要な示唆を与えてくれる。

(グレッグ・グランデイン 松下 洌監訳 明石書店 2008年6月 391頁 3800円+税)

『ラテンアメリカ時報』2008年秋号(No.1384)より