生産・輸出事業から生じる財政収入総額の対国内総生産(GDP)比および対政府比が高いラテンアメリカ・カリブ(LAC)諸国にとって、「再生不可能な天然資源」(Non-Renewable Natural Resources: NRNR)を持続可能な開発のために、どのように管理・活用(ガバナンス)していかなければならないのかが緊急な対策を必要とする政策課題となってきている。その背景および手段として、以下のような議論の必要性が高まっている現状がある。
① LAC地域では一次産品関連産業からの財政歳入が公的財源に占める割合が高い国が多いため、NRNR部門からの財政収入が不安定になれば成長の不安定要因になりかねない。
② LACではNRNR部門向けの海外投資は、被投資国内で社会紛争の標的になったり環境問題を引き起こしたりする。
③ 2020年から始まった新型コロナウイルス(COVID-19)感染大流行の影響で経済活動が大幅に規制されたため、多くのLAC諸国において政府歳入が減少する一方で、コロナ禍で顕著化した経済・社会格差の是正に向けた公共支出への要求が高まっている。
④ ロシアによるウクライナ侵攻の影響によるエネルギーや食料価格の高騰に苦しむLAC諸国の国民に対する安定的な支援財源を確保しなければならない。
近年に南米の数か国で左派政権が誕生した。その左傾化の波を背景に、LAC地域では経済社会開発のための財源としてNRNR関連部門からの財政収入を長期的に有効利用すべきとする議論、とりわけ「新しい採掘主義(Neo-Extractivism)」学派の流れを組む論争が活発化している。「新しい採掘主義」議論が深まるなか、NRNRがLAC諸国の財源としてどのような役割を果たしてきたのかに関する数量化された情報は限られており、むしろイデオロギー論が先走りしているように思われる。本レポートは、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)および経済協力開発機構(OECD)が集計するLAC諸国の財政データベースを中心に、OECD加盟国と比較しながら、LAC地域におけるNRNRと政府歳入との関連性について論考する。
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ラテンアメリカ・カリブ研究所レポート 「ラテンアメリカ・カリブ諸国における『再生不可能な』天然資源(NRNR)のガバナンスと財政政策」桑山幹夫
<目次>
I. はじめに
II. 再生不可能な天然資源(NRNR)と財政政策との関連性
A. 1990 年以降の租税収入対 GDP 比の推移
B. OECD との財政源比較
C. 租税項目別構成
III. 財政収入源としての NRNR の重要性
A. 長期的展望
B. コロナ禍における動向
1. 炭化水素
2. 鉱物・金属
IV. おわりに、ECLAC からの提言