ペルーを代表する歴史学者がスペイン植民地時代の古文書史料から、征服者ピサロとインカの王女イネスとの間に生まれたフランシスカの、数奇な生涯を解き明かしている。
フランシスカは、ピサロによってきめ細かなスペイン文化の教育を受け、17 歳でスペインに渡り18 歳で32 歳年上の叔父と結婚して3人の子をもうけた。その後ピサロがイネスに与えたエンコミエンダ(そこに住む先住民を使用できるがその教化義務を負った制度の下での荘園)等の資産を相続して当時のペルーでは随一の富裕な女性となり、スペインで豪奢な生活を送ったが、夫の死後間もなく年下の経済的に困窮した伯爵の息子と再婚した。
本書はこのフランシスカの生涯を中心に、ピサロから遠ざけられたイネスのスペイン人との結婚、フランシスカの結婚と再婚、遺言書の内容、子供たちとその後裔、さらに同じような出自で同時代を生きた二人の女性の生涯を紹介しつつ、歴史の暗闇に生きたこの時代の混血女性のアンデス的価値観とスペイン的価値観の激しい衝突の中での生き様を、一次資料から解明している。
(世界思想社 2008年8月 229頁 2160円+税)
『ラテンアメリカ時報』2008/9年冬号(No.1385)より