ブラジルの都市問題を、3大都市を例に様々な切り口から13 人の研究者が分析、解説している。まず歴史編として、19 世紀から20 世紀にかけてのブラジルにおける都市化の歴史から、旧首都リオデジャネイロの都市形成と土地占有の歴史、ブラジリア建設の成り立ちと衛星都市を概説し、現代編ではまずリオのインフラストラクチャーの不備により生じる断水、停電の改善、ブラジリアにおける都市流入者の増大にともなう土地占拠と路上等でのインフォーマル労働の増加という2つの不法問題、リオとブラジリアの都市住環境開発と公共政策の比較、サンパウロの都市問題に対する州と市の役割分担、サンパウロの東洋街の新伝統行事にみる日本文化表象の形成を取り上げている。
さらに現代ブラジルの貧困問題を政治地理学的に解析し、いくつかの都市で採られるようになった住民「参加型予算」の動向と課題、土地無し農村労働者運動(MST)の事例と教訓、それに対するにサンパウロ州リベイロンプレット市グアタパラの事例といった新しい問題が紹介されている。昨今のラテンアメリカのいわゆる左傾化という政治の動向が貧困格差の是正、都市の課題解決につながる望ましい動きとは楽観出来ないという編者の意図のとおり、都市問題の複雑さ、立場の違いによる利害の不一致など解決が難しいことの一端が窺える。
(春風社 2009年1月 340頁 3619円+税)
『ラテンアメリカ時報』2009年春号(No.1386)より