約30万人いるといわれる在日ブラジル人のかなりの人たちが、数年間の“デカセギ”から滞在が長期化、定住化が増大している。それとともに以前にも増して深刻な課題になってきたのが、その子弟の教育問題である。しかも、昨今の世界同時不況による企業の生産縮小によって、雇用や就労条件などで真っ先にしわ寄せを受ける非正規労働者が大半の彼らにとって、月に一人当たり45万円はかかるといわれるブラジル人学校へ子弟を通わせることの負担は大きく、少なからぬ子供たちが学校へ行かなくなるか、日本の公立学校への転入学を余儀なくされている。
日本の公立学校に入る場合は、日本語がよく出来ない保護者と当の児童、ポルトガル語を解さない教員にとっては、初めての登校時に学校生活がどういうものか? どのような手続や持ち物などの準備をしたらよいか? などから始まって、学校生活の中での行動や会話、先生や友達との付き合い方など、互いに意思の疎通に苦しむ場面が多い。
本書は、このような学校現場での様々な場面での初期段階でのやり取りを、日本語と片仮名の発音付きポルトガル語の対訳で聞く・答えるという問答集の形で懇切に示しており、互いの言語が判らなくても、指さしで意思を通わせることが出来るように工夫されている。巻末には、「先生のためのポルトガル語教室」とブラジルの国情、社会、文化、教育制度の概説と日本における日系ブラジル人児童教育の課題を指摘した「ブラジルを識るための10章」も付されており、教員等のポルトガル語とブラジルへの理解を助けている。
こういった現場レベルでの対話の成立こそ、在日ブラジル人の子供たちの不登校を減らし、周囲の日本人の子供たちや教員、父兄との交流を円滑にする身近な国際化の実践に寄与することは間違いない。
(田所 清克、伊藤 奈希砂、ペドロ・アイレス共著国際語学社2009年5月 207頁 1500円+税)