ラテンアメリカの大きな経済・社会格差の主因の一つに大土地所有制が挙げられる。この不均衡を是正するために農地改革の必要性がいわれるが、政治の支配層としては大土地を所有する地主が力を持っているだけに、その実行にはそれらを抑え込む強いリーダーシップが必要であり、多くは軍事政権や革命政権下ないし農民運動が活発になり騒乱状態になった場合のみに実現が可能である。
本書はそういったラテンアメリカでの農地改革の概況と背景にある農業問題、地域類型を概説した後、メキシコの農業政策の歴史的展開と農地改革、エヒード(アシエンダを解体し農民に分配したことから始まった、一定範囲の土地利用権を与えられた農民の地域集団)と呼ばれる独特の制度とその事例、実態、新自由主義経済の下での変容を解説し、次いでペルーのベラスコ軍事政権下で行われた農地改革を中心に、ペルーの農民運動と農村社会、さらにフジモリ政権の農業政策とシエラ(山地)の開発を取り上げている。最後に中米について長く続いた中米紛争と農業問題、ニカラグアのサンディニスタ政権下での農地改革、ホンジュラスの農地改革と農民運動、コスタリカの農業構造について分析している。
著者のアジア経済研究所時代からの40余年にわたる、メキシコ、コスタリカでの駐在経験を含めての長い研究期間に書かれた研究論文に手を加えて集大成したものであるが、依然ラテンアメリカでは農業とその土地問題が重要であるにもかかわらず、日本では正面から立ち向かった研究がそう多くない現状から、まとまった研究書として有用なものといえる。
〔桜井 敏浩〕
(学術出版会 2008年11月 404頁 5,400円+税)