グアテマラでは1996年に国連の仲介でゲリラ側と政府側が和平協定を締結するまで36年間にわたる内戦が続いた。中米ではキューバ革命に影響を受けた左翼が武装闘争を始め、米国が政府、軍を梃子入れすることで地域紛争が激化し長期化したもので、その間の死者・行方不明者は20万人以上、150万人の国内避難民、15万人の国外難民を出したと推計される。その被害者の多くはマヤ系先住民であり、特定地域では先住民のジェノサイド−皆殺しが図られたほど熾烈を究めた。
和平成立以降、ジェノサイドの実態の解明、地域社会の復興、そのための地域レベルでの対応能力の強化、地方公共政策、衣食住、生業、教育等の向上によって、「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」を意味する“人間の安全保障”が必要であり、日本もJICAがすでに技術・資金協力を通じて、その実現に支援を行っている。
本書は、対決後のグアテマラ社会が抱える問題点を、第一部で過去の先住民大量虐殺の検証とそれを現地で今も続けているNGO活動家の証言、その記憶装置としての博物館活動についての論考を取り上げ、第二部では言語教育、低い中央政府の統治能力を補うための地方公共政策改善のための国際協力の必要性を説き、具体例として地方指導者、文書管理の能力強化研修、栄養価の高い穀物であるアマランサスの作付け復活など、JICAが実施する具体的なプロジェクトを紹介している。
内戦時代から今日に至るまで日常生活のあらゆる局面で“人間の安全保障の挑戦”を続けているグアテマラの人々への側面支援を試行してきた文化人類学を含む人文学、社会科学、農学など広範な分野の研究者が、問題意識を共有して、グアテマラの内戦で生じた問題とその解決のために、それぞれの専門領域に即して実効的な社会復興への貢献するための行動のヒントを提供している。
(明石書店 2009年3月 279頁 5,000円+税)