『エバ・ルーナ』 イサベル・アジェンデ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『エバ・ルーナ』 イサベル・アジェンデ


 石油がふんだんに湧きだし、熱帯林があり、独裁政権崩壊の経緯と要人の国外逃亡の描写から著者も10年以上住んだベネズエラが舞台。

密林の捨て子だった母と毒蛇に噛まれ瀕死の先住民の庭師との間に生まれた娘エバは、人間の剝製法を研究する外国人医師の屋敷から始まり、政府高官や欧州からの移民や亡命者など様々な家で働きながら成長する。エバは生まれながら途方もない生命力とエネルギー、お話を語る天賦の才能を持っていた。黒人の料理女、良少年、売春宿の元締めの女将、夜ごと絶世の美女に化す教師、辺境の町のアラブ商人、ゲリラの指導者、高級将校、移民の報道カメラマンなど、エバは流浪の中で多くの人々と出会い、愛を知る。やがて物語や台本の執筆者の道を切り開いていく。独裁制が倒され民主主義体制がかたまりつつあるベネズエラで、二十世紀の歴史を背景に展開する波瀾万丈、奇想天外な挿話とエバの語る物語の数々が展開する。

著者は作家になる近道としてジャーナリストになり、軍のクーデタで倒されたアジェンデ大統領が父の従兄弟であったこともありベネズエラに亡命を余儀なくされ、ジャーナリストとして働きながら小説の執筆活動を始め世界的なベストセラーになった『精霊たちの家』(河出文庫 2017年)の代表作に続く長篇。このお話の名人エバが言葉の糸を紡いで織りあげた愛と復讐、小さな奇跡、様々な人生の物語『エバ・ルーナのお話』(白水Uブックス 243) 2022年10月 https://latin-america.jp/archives/57088 )も出ている。

〔桜井 敏浩〕

(木村榮一・新谷美紀子訳 白水社(白水Uブックス 242) 2022年7月 427頁 2,600円+税 ISBN978-4-560-07242-4)