連載エッセイ225:富田信三「2022年、米墨国境の不法越境者の動向が激変」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ225:富田信三「2022年、米墨国境の不法越境者の動向が激変」


連載エッセイ222

2022年、米墨国境の不法越境者動向が激変

執筆者:富田 眞三(在テキサスブロガー)


写真:(https://www.dallasmorningnews.vom)

【蛇足的まえがき】

「海外移住はしない方が良い。人間は生まれた土地で育ち、暮らし、死んでいくのが真っ当な生き方である」という趣旨が、米国の移住学会の主張として掲げられていたのを読んで、驚くとともに「なるほど」と納得したものだった。
しかし、16、7世紀以降、人間は旧世界から新世界に向けて怒涛のごとく移住して行った。合衆国の移住地は、多くの場合、ヨーロッパ諸国、同地方政府等の政策として開発され、安全や生活の面で移住者は新天地で暮らせたので、先住民との軋轢はあったものの、移民は自らの意思と希望で移住するものだった。
ところが、最近はラテンアメリカ、アジア諸国からアメリカ合衆国へ押しかける移住者は、政治的、社会的、経済的理由から母国では「食っていけない、生命の危険を感じる」といった理由で、ビザ無しで米墨国境から不法越境してまでも米国へ行きたがるのである。これはもう移住ではなく、難民、亡命と呼ぶのがふさわしい。
昨2022年、米墨国境に押し寄せた不法越境者は、新記録を樹立するほど増加するとともに、これまでは不法越境者と言えば、メキシコ人と中米人が95%を占めていたものが、同地域以外の出身者が43%にも増加したのである。以下、米墨国境問題の最新情報をご覧いただければ幸いです。テキサス無宿記)

2022年、米墨国境の不法越境者動向が激変


図表:(www.wola.org)

2022年10月に発表された、合衆国税関・国境警備局(CBP)のリポートによると、昨年の米墨国境における不法越境による拘束者は238万人を超える新記録になり、バイデン政権の懸念材料になっている。

なお、税関・国境警備局は不法越境による拘束者を第8号法(Title8)の定めによって「拘束者(encounter)」として逮捕する決まりになっている。また、公衆衛生法の規定する、不法越境者中の新型コロナ感染者は、2020年3月以降、第42号法(Title42)に基づいて国外退去を命じられる。

さて、これまで不法越境者といえば、メキシコと同国に近い、いわゆる中米北部三角地帯と呼ばれる、グアテマラ、ホンジュラスとエル・サルバドール3国の出身者が大部分を占めていた。ところが、昨年は不法越境者の出身国に変化が起こり、メキシコと中米諸国以外の西半球諸国、例えば、べネズエラ、ニカラグア、キューバ出身者が劇的に増加した事実が明らかになった。

とともに、この三国がいずれも極左政権であることも、偶然ではない。上記CBPのコミッショナー・マグナスは、破綻寸前の極左政権下にある三国の経済的不安定及び政治的抑圧が移民流出のPUSH要因となっている、コメントしている。これは、移民送出国のすべてにあてはまる、といえる。そして、移民を引き付ける(PULL)魅力的な国が米国なのである。

米墨国境に押し寄せる、不法越境者及び難民申請者は、ブラジル、エクアドル、ハイチからも増加が著しい。そしてさらに遠方のウクライナ、インド、トルコ,中国からも米墨国境を目指してくる、というから驚きを禁じ得ない。

2008年以降、2018年までは、メキシコと中米諸国以外からの不法越境者の割合は4%だけだったが、2022年は何と43%を占めるに至った。


写真:(https;//talcualdigital.com)

具体的な数字を見ていただきたい。CBP(合衆国税関・国境警備局)によると、2022年の米墨国境地帯における、不法越境による拘束者は、かつての常連だった、グアテマラ、ホンジュラス、エル・サルバドールからは520,602名だったのに対し、新顔のヴェネズエラ、キューバ、ニカラグアからの拘束者は571,159名にも達した。これら三国は、米国との外交関係が無きに等しいため、常連国とは比較的順調に行える、不法越境者の送還等は話し合いすら出来ない状態になっている。

一方、メキシコは南米、中米諸国民のメキシコ・ヴィザの申請は受け付けているが、ヴェネズエラの米国外交機関は2019年3月以降閉鎖されているため、ヴィザの申請は出来ない。

2022年の不法越境による拘束者数を国別で見ると、主要五か国は、メキシコ、グアテマラ、ホンジュラスと新顔のキューバ、べネズエラとなっている。

なお、2023年1月から、キューバ人は米国ヴィザの申請が可能になり、べネズエラ人も米国に保証人がいれば、ヴィザ申請が可能ではある。もちろんメキシコ人、中米人の米国ヴィザ申請は可能だが、多くが繰り返し繰り返し越境を企てるのは、「拘束、または追放処分」を受けた人々は、正式のルートでは米国に入国できないからである。命がけで海外に移住するとは、ただ事ではないが、別に珍しいことではない。今の世界は自国民を「押し出す国」と他国民を「引き付ける国」の2種類があることをリポートした。

この稿を書くにあたって、多くの資料を読んで驚いたことがある。徒歩でメキシコの砂漠地帯を歩いて米国を目指すのは、メキシコや中米人のみならず、南米、アジア、アフリカ諸国の人々もいることだった。彼らは、米国の隣国メキシコがスタート地点ではなく、遥か遠くのコロンビアとパナマ間にまたがる、ダリエン地峡の難所(El Tapon del Darien)と恐れられている、100㌔の熱帯雨林の道なきジャングルを徒歩で縦断して、コロンビアからパナマに入る、命がけの旅をしていることだった。

米墨国境地帯の越境成功率は?


写真:(www.tomfernandez28`sblog.com)

さて、2022年の米墨国境の不法越境による拘束者は238万だったが、無事(?)というか見事に越境した者は何人いるのだろうか?正確な数字は不明だが、大体300万人と言われている。成功率50%と言うわけだ米墨国境地帯はメキシコ麻薬ギャングの麻薬交易のルートであり、彼らは副業として、麻薬の他に「移民」も米国に密輸出しているのは、周知の事実だ。この手の案内人をCoyoteと言うが、スペイン語でブローカーの意である。本来の意味は「オオカミ」なので、いつ牙をむくか知れたものではない。

ギャングはグアテマラ国境からメキシコ国内の案内料は2,000ドル、国境通過案内料は平均9,600ドルも要求するのだ。国境地帯に多数存在する、ギャングが掘削した、麻薬密輸用トンネルも大金を積めば通行させてくれる。彼らの案内料は、トランプ政権時代、国境の警備がきびしくなったときから、倍増した、と言われている。国境で拘束される人々は、そんな金を持たない、母国では食っていけない低所得者層ばかりなのが、悲しい現実なのである。(終わり)

参考資料:El numero record de encuentros con migrantes en la frontera Mexico-Estados unidos encubre la historia mas importante(Ariel Ruiz Soto)

El creciente numero de migrantes chinos que atraviesan la selva del

Darien para llegar a EE.UU.(BBC Mundo)