『移民の譜(うた) —東京・サンパウロ殺人交点』 麻野 涼 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『移民の譜(うた) —東京・サンパウロ殺人交点』 麻野 涼


新宿でかつて移民送り出しを行い、その業務を担当していたことのある国際協力事業団の総裁がホームレスの男に刺殺された。一方サンパウロで警察や司法の手から逃れている過去に悪辣な犯罪的行為を行った者を追い詰め惨殺する秘密私刑組織に日系老人が射殺され、両者とも戦前使われた旧百円紙幣が絡んでいた。過去のリオ・グランデ河の移住地で起きた一家殺しや、続いて東京とサンパウロで次々に起きる殺人事件の謎をそれぞれ追う日本とサンパウロの新聞記者が、その背景にはブラジルへの日本人移民史の暗部である勝ち組と負け組の抗争と、その混乱期に勝ち組の間で荒稼ぎした偽皇族や無知な移民に旧円紙幣を売りつけた詐欺事件、そして戦後トルヒーリョ独裁時代に送り込まれ惨状をきわめたドミニカ移民が関係していることに辿り着く。

東京とブラジルでのいくつもの事件と、それらに関わる意外な関係者達を登場させながら、日本人移民史の中で暗躍した者達と彼らへの復讐を行っていく過去の被害者の子弟、事件の解明に迫る日系人記者とその恋人などの日本・ブラジル両国にまたがる複雑な交錯を描いて、一気に読ませる長編サスペンスである。

こういった移民や日本への出稼ぎ南米人、ブラジル人の日常生活を交えた題材での描写は、得てして誤解や現実とは違う表現の著作が少なくないが、本書はきわめて正確かつリアリティがあるが、それは著者が実はブラジル移民を追った『蒼茫の大地』(講談社文庫 1994年)、『日系人 その移民の歴史』(三一新書 1997年)やドミニカ移民のドキュメンタリー『ドミニカ移民は棄民だった』(明石書店 1993年)などの著作のあるノンフィクション・ライター高橋幸春だからである。過去の日本政府の移民政策を絡ませた復讐劇としては、アマゾン移民を扱った『ワイルド・ソウル』(垣根涼介幻冬舎2003年)がありこれも面白いが、本書は移民史を本格的に取り込んだ、サスペンスとして一読に値する。

http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/sakurai/sk15_01.htm#ワイルド・ソウル

(徳間書店(文庫) 2008年6月 621頁 914円+税 −『天皇の船』 文藝春秋 2000年刊改題 )