『メキシコの歴史-メキシコ高校歴史教科書世界の教科書シリーズ25』 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『メキシコの歴史-メキシコ高校歴史教科書世界の教科書シリーズ25』


ホセ=デ=ヘスス・ニェト=ロペス、マリア=デル=ソコロ・ベタンコート=スアレス、リゴベルト・ニェト=ロドリゲス、タニア・カレニョ=キング著 国本伊代監訳 島津 寛共訳

「歴史は役に立たないと多くの学生は考えている。これには一理ある。なぜなら多くの場合、教えられる歴史はわれわれの世界のもつ意味も結びつきも顧みることなく、年表、年代記、偉人の業績、政治的・軍事的性格の出来事の記述であるからだ」と冒頭にあるが、本書はまさしくそれら従来の歴史教科書からの脱却を目指した構成になっている。これまでの歴史教科書は公式史観に沿いメキシコの根源を先スペイン時代に求め、メキシコ革命を賞賛することに紙数の多くを割いていたが、本書ではまず歴史学の概念と方法論を示した後、先スペイン時代から独立達成までの第?部と、19 世紀の米国とフランスの侵略、干渉があっての国民国家の形成、ディアスの時代といくつもの革命を通じての国家計画の強化、カウディーリョ間の戦い、カルデナス主義の革命後の新体制、そして1940 年以降の国民統合、第二次大戦がもたらした経済の「メキシコの奇跡」、制度化された革命体制とその制度危機、新自由主義の採用、万年与党であるPRI 支配体制から脱却して民主化へ移行し21 世紀に入る現代までを第?部と、全体に現代メキシコの形成過程をバランスよく記述している。

各所に重要な出来事・事項の解説、重要人物の簡略な伝記、背景等の資料に加え、自習活動課題があって、メキシコの高校生が自国史をどのように学ぶかを知ることができ、メキシコ人のアイデンティティを理解するうえでも役立つすぐれた教科書の翻訳である。

(明石書店 2009年7月 422頁 6800円+税)

『ラテンアメリカ時報』2009年秋号(No.1388)より