2008年5月1日にボリビアのウユニ塩湖で、観光客を乗せた車同士が正面衝突、車が積んでいた予備燃料に引火し爆発炎上して、双方の車で計13人が死亡、そのうち5人は日本人だった。その中に、11月の結婚を控えて独身最後の旅行に出た著者の長女がおり、本書は父がまとめた事故前後の痛恨のドキュメントと愛嬢の回顧である。
あの広大な大平原でなぜ衝突事故が起きたのか? ただ一人生き延びた対向車の運転手は逃亡し、ボリビア検察当局等は原因や責任の所在についての調査をあいまいなままで終わらせようとしている。父は娘の無念を思い、下院外交委員長のナガタニ国会議員、安次嶺正勝ハイメ駐日大使を通じて、ボリビア政府に原因の究明、運転手の拘束と処罰、ツアー会社の賠償、そしてウユニ塩湖ツアーでごく一般的に行われている燃料をポリタンクに入れて搭載させて走ることの規制などを要求しているが、ナガタニ委員長や大使の尽力の誠意は感じるもののボリビア政府の反応は鈍い。
就職前はバックパッカーとして世界各地の旅行経験も豊富な亡くなった愛嬢との思い出、遺された家族や婚約者の悲しみ、そして再生への歩みの決意に至るまで、楽しかるべき観光旅行での一瞬の事故がいかに多くの関係者を苦しめ、その原因究明をなおざりにされることの遺族の怒りを痛切に伝えている。
ラテンアメリカと長く関わり、住んだことがある者として読むと、ボリビアの政府を日本と同じように法治が行われていると考えての抗議と思える箇所もないではないが、最近日本でも注目されるようになり、訪問客も増えているウユニ塩湖観光の、そしてまだまだ法制やそれにもとづく規制、統治が後れている国への旅行の危険についての指摘はもっともである。
(日本経済新聞出版社 2009年3月 245頁 1,600円+税)