『ラス・カサスへの道 —500年後の〈新世界〉を歩く』 上野 清士 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ラス・カサスへの道 —500年後の〈新世界〉を歩く』 上野 清士


コロンブスの“新世界発見”後に、大量に流入した旧世界からの植民者による先住民の大量虐殺と酷使を糾弾し、『インディアス破壊を弾劾する簡潔な報告』(染田秀藤訳 1976年 岩波文庫ならびに『インディアス破壊を弾劾する簡略なる陳述』石原保徳訳 1987年 現代企画室)や『インディアス史』(全7冊長南 実訳・石原保徳編岩波文庫2009年http://www.latin-america.jp/modules/bluesbb/thread.php?thr=189&sty=1&num=l50#p204 )で名高いスペインのカトリック司教バルトロメー・デ・ラス・カサス(1484−1566年)のカリブ・中南米各地に遺した足跡をくまねく歩いて、それぞれの土地でラテンアメリカの歴史と文化の過去と現代を論じた紀行ノンフィクション。

著者のこの旅は、スペインの古都マドリッド、セビージャ、カディスから始まり、ドミニカのサント・ドミンゴ、回心の地キューバのサンクティ・スピリトゥスとハバナ、侵略・収奪とは異なる「平和的植民計画」を試みて挫折したベネズエラのクマナ、パナマ市、ペルーのリマ、ニカラグアのグラナダ、エルサルバドルのサンサルバドル、グアテマラの旧都アンティグアや先住民の町チチカステナンゴ、先住民マヤの遺跡のあるコパン、ホンジュラスのプエルト・コルテスを巡る長い旅は、アステカの都であった現メキシコ市のテノチティトラン、サパティスタの活動の地サンクリストバル・デ・ラス・カサスをも周り、当時ヌエバ・エスパーニャと呼ばれたメキシコの最大の港で、征服者コルテスが上陸し、スペイン本国との通信・交易の中心であったベラクスで終わる。

1990年から2003年までグアテマラ、メキシコで長く生活し、活発に中米事情を発信、評論してきた著者 (『熱帯アメリカ地峡通信』 現代書館 1995年など) ならではの、ラス・カサスの足跡と業績、その評価に対する真摯な探求心が、ラス・カサスが告発した問題がなお今日的な意味をももつことを伝えていて、単なる紀行に終わらせていない。

(新泉社2008年8月382頁2600円+税)