『お尻に火をつけて』  鈴木 亜紀 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『お尻に火をつけて』  鈴木 亜紀


ピアノ弾き語りを中心に、音楽に留まらず写真展や詩集出版と活躍している著者が、2004年のライブツアーが終わった後の休養先として、1998年にふと入った店で買ったCDの歌手リリアナ・エレーロに見せられてアルゼンチンを選ぶ。リリアナの歌うフォルクローレの吟遊詩人アタウアルパ・ユパンキや作曲家レギサモンの歌への思い入れが昂じてのことで、ブエノスアイレスからアルゼンチン・フォルクローレの中心地フフイに赴き、リリアナのコンサートで念願の対面を果たす。打ち上げのペーニャの飲み会には、ユパンキと並ぶフォルクローレの重鎮エドアルド・ファルーなども来ていて、ともに次の公演地サルタに向かう。この後、彼らと別れアタカマ砂漠、ママリョーカ天文台のあるラ・セレナ経由チリの首都サンチャゴを回って再びブエノスアイレスへ、リリアナたちと再会する。

帰国し、津軽、敦煌、沖縄、出雲、四国、スペインはアンダルシアへの二度の旅。2006年にリリアナの初来日公演とその共演を実現したあと、ふたたびアルゼンチン国立図書館で写真展とライブを行うためにブエノスアイレスに行き、パタゴニアからウシュアイアに出て、そこに唯一人住む日本の老婦人ウエノさんに会う。ここで最期を迎えるだろうと淡々というウエノさんに対し、日本に帰える自分には、住処を自分で見つける自由があるからこれからも日本に居るとの感じる著者。音楽活動などであちこち旅をしてきたこの10年だが、すべての旅に共通していたのは「お尻に火をつけて」であったし、これからも火をつけたまま、知らないところへ行き、人のフシギを見尽くしたいという。

ライブに来てくれたお客さんが開演前に手持ち無沙汰を感じているだろうと配布した「さくらえび通信」(著者は焼津出身)をまとめた紀行エッセィだが、淡々とした記述の中に人や土地柄への観察眼が感じられる。

(晶文社2008年6月252頁1700円+税)