『マチュピチュ —天空の聖殿』 高野 潤 (文・写真) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

 『マチュピチュ —天空の聖殿』  高野 潤 (文・写真)


今なお優れた石造建築技術に目を奪われるマチュピチュを中心にしたインカ文明の全貌を、アンデス、アマゾンを専門にしてきた写真家である著者ならではの美しい多くのカラー写真とともに紹介する紀行記である。

13世紀頃ペルーのクスコ地方に生まれたインカの創造伝説には、クスコ建設とともにこのマチュピチュ辺りの自然と農作物を思わせる記述も出てくる。15世紀のインカ第9代パチャクティ帝の命により建設されたといわるマチュピチュは、クスコからのインカ道があり、山頂稜線上に展開する都市は、自然を取り入れたテーマパークの趣きがある。ここに誰が住み、どのように生活していたのだろうか?植民地初期にマチュピチュの名が出てくる土地売買古文書があるが、この都市は見捨てられ、この地方の地図が1874年にドイツ人に作成されたが、都市マチュピチュは1911年に米国の歴史学者ハイラム・ビンガムにより発見されるまでロスト・シティであった。タワンティン・スユ(東西南北4つの州)と呼ばれたインカの遺跡には、クスコを中心に見ただけでも、城塞、水路、急流を渡る吊り橋、階段畑、祭祀場、墳墓など、多彩で高度な技術があったことを見せるものが多く、また広大な東方圏には各地に大量の黄金が隠されているというパイティティと呼ばれる黄金伝説がある。

マチュピチュの成り立ち、近代になっての発見史、遺跡の全体像、かつて住んでいた人々の生活、さらに東方圏の神秘に至る、長年の著者の探訪の記録と写真を紹介しており、写真だけでも大いに一見の価値がある。

(中央公論社(カラー版新書)2009年7月194頁1000円+税)