高知新聞が創刊105年を記念して、2008年に100周年を迎えた高知県人のブラジル移住者の足跡を追った連載記事の集成。記者を9ヶ月間派遣し、ブラジル各地での同県人の汗と涙の人生から何かを学びたいと取材したが、本書のもう一つの特色は、高知出身で笠戸丸の最初の組織移住者集団を率いた“ 移民の父” といわれる水野 龍の足跡を辿ったことである。
「皇国殖民会社」を立ち上げブラジル移民を募った水野は、当初から外務省への保証金等の資金繰りに苦しみ出航が遅れ(これがその年のコーヒー収穫期に後れを取り、移住者の生活を一層困窮させる一因になった)、転用した移住者からの預り金の返済や困窮者への対応をきちんと行わなかったことなどから、笠戸丸以降12年間に45隻、2万2千人余りのブラジル移住に関わった水野の評判は必ずしも芳しくないが、両国当局との抜群の交渉力を発揮してブラジル移民の道筋を切り開き、日本側の利益だけで送り出した満州移民とは一線を画して、ブラジルでは共存共栄の理想を目指した水野について、移民史の中では正しく評価されているとはいい難いとの指摘を紹介している。
ブラジル各地にいる高知県人移住者の過去と現在、そして今は日本に来ている“ 出稼ぎ” 日系人の現状まで広く取り上げており、地方紙の特色を活かした総合取材の好企画である。
(高知新聞社 2009年11月 269頁 1524円+税)
『ラテンアメリカ時報』2009/10年冬号(No.1389)より