約1万年前の最後の氷河期にユーラシア大陸と北米大陸を結ぶ陸橋を渡って人類が移住し、インカなどの神話社会を構築した先住民が、スペイン人と遭遇して文化と混血により交錯し、過酷な植民地時代の後に独立を求めて戦い、その後の混沌の時代を経て現代に至るまでのラテンアメリカ一万年の歴史。ともにラテンアメリカ史を専攻する研究者が執筆した本書だが、ラテンアメリカ全体を俯瞰し、古代から現代(1990年のブッシュ大統領による米州自由貿易圏FTAA 構想、フジモリ大統領の再選まで)に至る鳥瞰図に、アンデス社会のインカ史と植民地時代のインディオ社会に生じた変化に焦点を当てた記述が巧みに織り込まれていることも、内容を一層厚くしている。
1997年11月に同社から出版された同名書の文庫版で、二人の執筆者による文庫版あとがきと原書執筆後に刊行された主な研究書のリストを加えた以外に改訂や追加はなされていないが、それは1990年代初めの債務危機後の「ポスト積極国家期(新発展戦略の模索)」は、現代に至るまで“ 星雲状態” で「時代の新しい基準」はまだ続いていると見ているからでもあるとしている。
(中央公論社( 文庫) 2009年11月 589頁 1905円+税)
『ラテンアメリカ時報』2009/10年冬号(No.1389)より