マリー前村ウルタード、エクトル・ソラーレス前村 監修−伊高浩昭訳−松枝 愛
チェ・ゲバラが1966年に農民革命を起こすためにボリビアに入り、ゲリラ部隊を組織し戦闘を開始したが、その後衛部隊に日系ボリビア人のフレディ前村がいた。父は鹿児島県出身でペルーに移住しアンデスを越えて入ったベニ州のトリニダードで結婚し、本書の著者である長女マリーなど二女三男を得、フレディは次男として1941年に生まれた。フレディはキューバ政府奨学金でハバナに医学を学びに行っていたが、もともと正義感の強かった彼は1962 年のキューバ危機を契機に進んでゲリラ訓練を受け、ゲバラの理想に共鳴して彼のボリビアでの革命運動のための戦いに参加、1966年10月に家族には秘して帰国した。
ボリビアでのゲバラの革命活動は、ボリビア共産党の協力や活動地域の農民の支持を得られず、都市部での秘密支援組織や連絡体制が貧弱だったことなどから、米国の支援で態勢を整えた軍にボリビア南東部の山間部で追い詰められ、1967年8月に軍への農民の密告で後衛隊は渡河中に待ち伏せ攻撃を受けてフレディは負傷、尋問を拒んで虐殺された。ゲバラもその2ヶ月後に戦闘で重傷を負い、捕虜となった翌日に処刑された。
その後フレディなどゲリラの家族は軍事政権等から弾圧を受けたが、1982 年の民政移管後徐々に圧迫は収まり、1995年にゲバラの遺体が発掘されてキューバに還った後、97年にはフレディの遺骨も発見され、墓碑にいやがらせを受けて来た家族の同意により、キューバのサンタクララのゲバラ等ゲリラ戦士の霊廟に埋葬された。
本書は、姉マリーと記者であった夫が「侍のように誇りと勇気をもって」生きたフレディの生涯を書きとめた記録をその息子のエクトルが纏めたもので、フレディの生い立ち、成長、その最期ばかりでなく、ゲバラのボリビアでの戦いと敗北の原因、ボリビア政府・軍の当時の対応について詳細に記述しており、『ゲバラ日記』(中公新書 2007年)と合わせ読むと一層興味深い。
(長崎出版 2009年8月 347頁 2000円+税)
『ラテンアメリカ時報』2009/10年冬号(No.1389)より