ジャズを撮ることから写真家になり、アフリカ音楽に魅せられてナイジェリアを取材したことから、環大西洋の文化の流れを追って西アフリカから多数の奴隷が送り込まれたブラジル東北部バイーアを訪れた。アフリカ系ブラジル人の間に伝わり、現代においてもなお脈々と行われている歌、リズムや踊り、衣装などの色は、古い時代に大西洋を越えてブラジルやキューバに持ち込まれて根付いたものである。
カトリック化したとはいえ、彼らの間で脈々と伝わり、儀礼が行われているカンドンブレは、ヨルバ(ナイジェリア、ベニンにかけて住む人たち)の多神教、神話とすべて繋がっている。このヨルバの音楽や踊りなどから先に入った著者であるからこそ、サルバドールのカトリックとカンドンブレが融合した祭りやカンドンブレの言い伝え、儀式に入っても、その背景がよく理解できる。サルバドールのカーニバルや多くのミュージシャンとの交流の姿も、ジャズから一貫して音楽、それもアフリカ系音楽に関わってきた著者ならではの肌で感じ取った感覚で見たブラジル紀行になっている。
巻末にバイーア音楽を彩る音楽家たちと、著者を含む6人の日本人評論家が推薦する「ブラジルを体感するためのディスクガイド」も付いている。残念なことに色彩豊かな筈の本文中の写真がモノクロになっているが、アフリカ系音楽のルーツをよく知っている写真家のバイーアの探訪はふつうのブラジル紀行とはひと味違う世界を見せてくれる。
(ブルース・インターアクションズ2009年10月319頁2500円+税)