連載エッセイ229:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その43 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ229:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その43


連載エッセイ226:硯田一弘

「南米現地最新レポート」その43

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「2023年3月5日発」

最近の日本では色々な食品価格の上昇がニュースになっていますが、今回は先ず永年に亘って物価の優等生と言われてきた鶏卵を取り上げます。既に各種媒体で報道されている通り、今年2月の平均価格が10個で262円となって過去最高値となったとのこと。つまり卵一個の値段が26円となったということ。https://jpmarket-conditions.com/1341/

この背景には世界的な鳥インフルエンザの流行による供給の減少や飼料原料の価格高騰という事情があり、先に農水大臣が価格安定化にはまだ少し時間がかかると述べた通り、当分の間この状況は続きそうという観方が支配的です。パラグアイでも2月にアルゼンチンやウルグアイで鳥インフルエンザの発生が報道され、結果的に卵の値段が上昇しています。Encarecimiento de huevos se da por varios factores, al margen del posible ingreso de gripe aviar, dicen(鳥インフル以外の要因も含めて鶏卵価格が上昇中)

パラグアイのスーパーマーケットでは卵は30個入りのパッケージで売られるのが一般的ですが、この値段がGs.30,000を超えている、つまり1個の値段がGs.1,000≒20円弱になっているということ。

パラグアイでは公式には鳥インフルエンザの発生は報じられていないものの、隣国で発生していることから価格の上昇圧力が高まっているようです。一方、人間の間ではチクングニヤ熱という蚊を媒体とする病気の流行が拡大しており、蚊に刺されないよう注意を促す声が多く上がっています。

チクングニヤ熱の流行はここ数年毎年夏になると報じられてきましたが、今夏の流行はこれまでよりも感染数が多く、既に30人以上の犠牲者が出たことも大きなニュースになっています。この意味で、新型コロナ=Covid19はパラグアイにおいては既に過去のもので、今は蚊の攻撃から如何に身を護るか?が人々の関心事になっています。

暦の上では3月を迎え、日本の春分の日(今年は3月21日)=南半球の秋分の日を過ぎた26日にパラグアイの冬時間が始まり、現在日本との時差12時間であるのが13時間に変更されます。(9月30日まで) つまり、夏が過ぎて秋を迎える訳で、蚊の発生は少しマシになるかも、と期待されますが、そうは言っても一年を通じて涼しい時期は5月から7月までの3ヶ月程度というのがこちらの気候であり、雨の予報が続くこれからの時期は蚊の発生も続くと思われますので、引き続き朝夕の蚊の攻撃には注意が必要です。

「2023年3月12日発」

昨年末から2月のはじめにかけて酷暑の日々が続き、今年の大豆の収穫量も相当落ち込むことが懸念されましたが、2月の後半から雨が降っている結果、こうした懸念は払拭され、平年並みよりは少し低い水準の900万トンの大豆収量が見込めると報じられています。 https://www.lanacion.com.py/negocios/2023/03/11/lluvias-llegaron-al-final-de-la-cosecha-y-benefician-a-la-zafrina-y-la-navegabilidad/

この雨は河川交通にも良い兆候を示しており、パラグアイ川の水位はご覧の通り急回復し、二年前の最高水位に迫る勢いで降雨が最近あったことを示しています。

また、大豆の収穫が好調な結果として、為替レートもグアラニ高となっていて、昨年9月以降大幅なグアラニ安となった対ドルレートはここにきて反騰しており、大豆の販売収入であるドルを売ってグアラニに換えるという例年3月前後の動きが復活、経済活動にもプラスの流れが生まれていることを示しています。

ただ、同じ大豆の輸出国でありながら、隣国ブラジルやアルゼンチンではこうした動きは生じていません。

これは、パラグアイ経済が大豆収入に大きく依存している証左でもあり、その意味では、パラグアイはより多面的な収支構造に変換する必要がある訳でもありますが、現時点では周辺国に対しては通貨高を示しているので、国境を越えて買い物に行った方が有利ということになっています。

今週はアルゼンチンやボリビアからの来客と彼我の政治経済情勢について話合う機会を得ましたが、上のグラフからも見て取れるようにアルゼンチンの経済は右肩上がりのペソ安となって市民生活を直撃しており、亜国駐在員の生活も日常のモノ不足という、ベネズエラで見たような状況に陥っているようです。

アルゼンチンでは中央銀行が主導する公定レートの他に青レートと呼ばれる裏の換算率が存在しており、現在表向きはA$200/US$となっているレートは、A$370/US$と二倍程度となっていて、ドル収入で暮らす限りは生活は出来るものの、事務所や工場の経費は公定レートで換算されるので、事業としては大変厳しい環境となっているとのこと。

パラグアイには保税加工貿易としてのマキラドーラという制度も整備されており、自動車部品の大手は全てパラグアイでの操業を行っていますので、在アルゼンチンの日本企業の皆様には、収益改善のためにパラグアイへの移転をお勧めしたいと思います。

「2023年3月19日発」

今週後半は、エステ市で昨年末にオープンした新しいショッピングセンターLago Shoppingで開催された建設見本市Expo Construirに参加してきました。

この展示会は、エステ市商工会議所が主催し、パラグアイ東部のアルトパラナ県の建設業界が中心となって展示を行う行事ですが、大きな会場での開催は初めて、しかも最大スポンサーが昨年稼働開始した最新セメントプラントを擁するCECON社(Cartes前大統領の傘下の会社)ということで、連日多くの人出があって対応も大変でしたが、パラグアイで初めて製造する日本の萩原工業のコンクリート補強繊維バルチップ®のブースは、90社ほどが出展した今回の展示会でもダントツの注目を集め、成長著しいパラグアイの建設関連業界の中でも大きな注目を集めることになったようです。

今回の展示会は、参加費そのものが550ドルと低廉であった上、展示用のパネル等も展示会流行りのパラグアイではかなり安価に作ることができたので、これだけ集客力のあるイベントへの出展費用としてはかなり安価に仕上げることが出来ました。

その上、地元の報道機関と連携して、広告宣伝費を遣わずに認知度を高める作戦を展開し、今回も多くの耳目を集めることに成功しました。

https://www.facebook.com/regionespy/photos?locale=es_LA

地元の月刊経済誌Regiones誌の記者は、連日取材に訪れてくれて有力な建設会社や事業主等が来場するたびに我々のブースに誘導してくれて、将来の顧客候補を紹介してくれるなど、取材に対応した御礼としては過分なほどのサービスをしてくれました。

先月は建屋が完成した工場に商工省の副大臣をお迎えして現状の説明を行なったのですが、この際にも、全国紙の記者が出向いてくれて非常に好意的な記事を掲載してくれたことで、パラグアイではスタートアップ企業とも言えるHagihara Industries Yguazu社とその製品Barchipの知名度向上に大きく貢献してくれました。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2023/02/20/muestran-en-cde-planta-industrial-japonesa-de-fibra-sintetica-que-producira-1200-tnano/

日本では報道機関との連携は中々難しい部分もありますが、積極的に外資の導入を促進するパラグアイでは、官民一体となって新参者を歓迎する環境も整備されていて、こうした点も小国パラグアイの魅力と言えます。

因みにブラジル・アルゼンチン・ペルー・コロンビア・ボリビア・ベネズエラ・チリと殆どの国々に面積では及ばないために南米の中では比較的小国という位置付けになってしますパラグアイですが、日本やドイツよりも広い国土であり、ヨーロッパに持って行けばフランス・スペインに次ぐ大面積の国ということになります。(今回のExpoでスピーチした友人の受け売り)   https://ecodb.net/ranking/area.html

ところで、パラグアイの新聞社は、紙媒体の発行よりも電子媒体での記事やニュースの提供により軸足を置いています。今回紹介したRegiones誌も、フェイスブックやインスタグラムのページを充実することで、より即時性と拡散性の高い情報発信に努めている、と聞かされました。パラグアイの欠点と言える新聞キオスクの不在ですが、新技術の積極的な導入で弱点を強みに置き換える戦略も進んでいます。

https://www.abc.com.py/
https://www.hoy.com.py/

「2023年3月26日発」

今週半ばにLa Nacion紙に掲載された経済分析記事によると、2月以降の順調な降雨が、パラグアイ経済に回復基調をもたらしているとのことです。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2023/03/22/repunte-de-la-energia-sera-un-impulso-adicional-para-la-economia-paraguaya-senalan/

パラグアイの発電がほぼ100%水力発電によって賄われていることはこれまで何度もお伝えしていますが、最近の降雨が、水力発電の能力回復や、収穫期を迎えた大豆の収量確保に大いに好影響を与えているということ。

電力の供給不安は今や世界的な課題ですが、安定した水力発電基盤を持つパラグアイでは、余程の渇水が生じない限り、発電量は極めて安定しています。因みに世界最大の発電量を誇るブラジル国境のイタイプダムは1400万kwの発電能力を有しており、更にもう一つアルゼンチンとの国境にあるヤシレタダム350万kwを合わせると、日本の水力発電能力の3割以上を二つの発電所が有していることを意味します。

日本の総電力の中に占める水力のシェアは僅か8%弱ですから、この数字だけ見るとそんなに大きなものには感じませんが、しかし人口が800万人弱と、日本の7%程度でしかないので、相対的にこの数字は極めて大きな意味を持つことが判ります。

この電力を1984年からコンスタントに発電しているイタイプ電力公団はパラグアイ最大の外資の稼ぎ頭でもあり、パラグアイ経済の利益の根源とも言える集団です。実は今週、このイタイプ公団に日本のJETROの関係者を御案内する機会を得て、電力の有効活用に関してパラグアイと日本が如何なる協力体制を整えられるか?という話合いを行ってきました。電気を如何に有効に使うか?という世界共通のテーマについて、新しい関係の構築が今後の両国の利益の上昇に資するよう、工夫を重ねて行きたいと考えます。