『ゴキブリ経営法 −激動のブラジル社会で生き残った「しぶとさ」』 深田 毅二 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ゴキブリ経営法 −激動のブラジル社会で生き残った「しぶとさ」』 深田 毅二


著者は1956年に叔父の呼び寄せ移民としてブラジルへ渡航、サンパウロ近郊の叔父の果樹園、そして養鶏場で働きながら学校に通い、1963年に20歳で独立して兄弟と菓子製造のラッキー社を興した。製造業としての当局の許可取得、衛生局や税務署の調査に対応するためには賄賂や脱税が常識だった零細企業時代を経て、1970年代以降は成長し始めたスーパーマーケットへの製品売り込みに注力し、売掛金の山とインフレ、工場拡張にともなう公害発生、税金滞納、幹部の裏切りなど、何度も挫折の危機をむかえ、それを乗り越える度にしぶとい処世術と経営のコツを身につけていった。

長年の経営の経験から、様々な事態に備えて出来る限りの手を打っておくこと、経営者に不可欠な強運、創造性、戦略性という三要素、人の過去の言動や性格、状況を考慮して判断するという思考、業界との競争法、そしてそれらの経験から編み出した“ゴキブリ経営法”やハイパーインフレ下での原価・収益の考え方など、ブラジルでの中小企業の地を這う商売の実態と対応策を詳述している。

創立20周年を迎えた頃、同族会社が二代目、三代目になって成功裏に続く例は少ないと、ブラジル第二位の菓子メーカーに成長したラッキー社の売却を決心し、スナック菓子でも大手のペプシコに持ちかける。それも米国本社を意識してメキシコのウォールマートに売り込みをかけるなど、自社の魅力、存在感を高めて有利に買わせることに成功したのである。

これまでの大企業の人が書いたブラジルでの経営法に見られない、生々しい具体的な経営体験が述べられていて、面白い経営指南書になっている。

(K&Kプレス2010年2月167頁1200円+税)