『崩壊』  オラシオ・カステジャーノス・モヤ  | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『崩壊』  オラシオ・カステジャーノス・モヤ 


著者はエルサルバドル人だが、ホンジュラスで生まれの作家でありジャーナリスト。 ホンジュラスのミラ・ブロサ家という架空の名門一族の親子、孫の愛憎劇。第一部は1963年のある日、右派政党主の娘テティが既に二人の男児をもうけたエルサルバドル人の25歳も年上の男との結婚式の日に、母レナが式に参列しようとする花嫁の父である夫をバスルームに閉じこめて行かせない。レナの夫、娘に対する罵りは凄まじく、預かっていた孫を娘が引き取ることを拒むが、結局ケネディ大統領暗殺の第一報が伝えられる中、娘は子供を連れて出ていくという、まさに芝居の一幕のような場面から始まる。

第二部は、夫、子供とともにサンサルバドルに移り住んだテティが、1969年に起きたエルサルバドル人のホンジュラス領への移住等への恨み辛みの鬱積から爆発したホンジュラス人のエルサルバドル人排斥行動の激化、それがエルサルバドル軍のホンジュラス進攻に至ったサッカー戦争に巻き込まれ味わったテティの恐怖を、そして1972年にエルサルバドルで起きた「アル中厚生会クーデター」事件の中での夫の暗殺の衝撃と悲しみを父との往復書簡で綴るが、その背後に依然ある母と娘の確執が母から娘への執拗な電話で描かれている。

第三部は、エルサルバドル内戦がまさに終わろうとしている1991年12月、レナ夫人が脳溢血で倒れ臨終が迫り、テティと二人の子が駆け付けるところから始まる。長年の使用人マテオの目を通して、レナとテティ、子供たちの親子関係の愛憎が相続をめぐってよりあからさまになり、夫や娘に厳しかったレナ夫人の別な顔が明らかにされる。

理解し合えない母娘の確執を抱えて厳しい時代を耐え忍び生きていくテティの生き様を、隣国同士や同国人の相互不信が暴動や戦争、暗殺の応酬や内戦を招き、一般国民の生活を苦しめた中米現代史の中で見事に描いた小説。

(寺尾隆吉訳現代企画室2009年12月216頁2000円+税)