『ロスト・スピーシーズ』 下村 敦史 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ロスト・スピーシーズ』 下村 敦史


 アマゾン河の熱帯雨林には人類にとって特効薬となる植物があるとみられ、それを見つけて莫大な利益を上げようと欧米の製薬会社はあらゆる手段を使って探している。植物学者の三浦は、インディオの間で不老の妙薬として用いられている「奇跡の百合」を探す要員募集に応じて、製薬会社員のクリフォード、金採掘人(ガリンペイロ)でボディガードのロドリゲス、英国人の植物ハンターのデニス、それに自称森林保全に共感するリオデジャネイロの女子学生ジュリアのグループでブラジル・アマゾン奥地に向かうが、デニスとの取り引きで騙された白人二人組も後を追い襲撃を仕掛けてきたことから舟を捨て徒歩で密林の中に踏み入る。途中絶滅寸前で言葉がまったく通じないインディオ シナイ族の少女を救い、天然ゴム採取人(セリンゲイロ)の集落に辿り着く。そこにはかつてアマゾンに入植し全滅した日本人移民の生き残りの高橋も居た。やがてクリフォードが製薬会社員ではなく、グループ組成の目的もシナイ族少女の拉致にあったこと、三浦の参加も行方不明の恋人の先住民言語研究者探索が狙いだったことが明らかになり、ヘリコプターを使っての白人二人組も交えた追跡劇となり壮絶な闘争を経て大団円にいたる。
 2014年の江戸川乱歩賞受賞で作家デビューした著者は、多くの参考文献を読みガリンペイロやセンゲイロの実態、日本人アマゾン移民の辛苦、天然ゴム採取人とアマゾン流域の牧場化を目論む投資者との対立や森林破壊、植物ハンターの暗躍、それらの中で迫害を受け絶滅の危機に瀕するインディオ部族など、アマゾン河流域をめぐる諸問題を取り込み、次々とアクションシーンも展開する小説に仕立てている。 

〔桜井 敏浩〕

(KADOKAWA 2022年8月 389頁 1,850円+税 ISBN978-4-04-111548-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年春号(No.1442)より〕