【季刊誌サンプル】新世界インフレで苦境に立たされるラテンアメリカ・カリブ経済 -近年の動向と2023年の見通し 桑山 幹夫 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】新世界インフレで苦境に立たされるラテンアメリカ・カリブ経済 -近年の動向と2023年の見通し  桑山 幹夫


新世界インフレで苦境に立たされるラテンアメリカ・カリブ経済 -近年の動向と2023年の見通し 

桑山 幹夫

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2023年春号(No.1442)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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特集 ラテンアメリカの政治と社会を揺るがす高インフレ ・世界インフレで苦境に立たされるラテンアメリカ・カリブ経済 -近年の動向と2023年 の見通し 桑山 幹夫(ラテンアメリカ協会ラテンアメリカ・カリブ研究所上級研究員

はじめに
ラテンアメリカ・カリブ(LAC)諸国のマクロ経済運営は、ロシアによるウクライナ侵攻の煽りで世界経済を取り巻く環境が更に複雑になったこともあって、2022年から新たな局面に入ったと言える。多くの先進国はインフレ沈静化が予想通りには進まず、早期の利下げには慎重で、23年に入って世界経済不況の懸念が強まっており、減速基調にあるLAC経済にとって不確実性が高まっている。世界インフレはLAC諸国の中央銀行による金融引き締め政策の継続を余儀なくさせ、成長のダイナミズムを損ねかねない。物価の上昇は弱い立場にある家計の購買力の低下を抑えるために、現金給付制度の継続や生活必需品や燃料に対する補助金、さらに税の軽減など、財政に影響を与えるような措置を継続するよう国家に圧力をかける。
LAC地域では2022年下半期からインフレが徐々に鈍化しつつあるものの、23年の3月の時点でも金利が未だに高止まりしており、外需や国内消費・投資が後退して、LAC経済は22年の3%台から23年には1%台に失速すると予測される。2000年代に上昇したLACの一人当たりGDPは過去10年間に減少しており、2014年から23年までの10年が1980年代の対外債務危機時の「失われた10年」より更に低い成長率に終わってしまう可能性が出てきた。本レポートでは、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC 2022)、世界銀行(World Bank 2023)、国際通貨基金(IMF 2023; Adler et al. 2023)による直近の報告書を参考に、近年のLAC経済の動向と2023年の見通しについて考察する。

最近の動向
ECLAC予測によれば、LAC全体の2022年の成長率(暫定値)は3.7%、同年8月時点の予測を1.0%ポイント上回った。この上方修正は、多くの国で労働市場が回復したことに加え、現金給付や緊急補助金などの時差効果に支えられた22年上半期に個人消費が堅調だった結果である。しかし、金融・財政引き締め政策、消費や投資活動の停滞、工業生産の低迷、外部環境の悪化を反映して、LAC経済は同年下半期から減速に転じた。上半期に雇用が回復したにもかかわらず、通年でみると、労働参加率や失業率などの雇用関連指標における男女間の格差が解消されず、また高インフレの影響で実質賃金の低下と共に非正規雇用が増加した。
ECLACによれば、LAC輸出の伸び率が前年比で2021年の27%から22年の20%に減速した。輸出額 の増加は外的要因(特に、燃料を中心とした原材料価格の高騰)に起因するもので、輸出量の拡大や新分野における輸出品の多様化といった内的要因によるものではない。特に、化石燃料輸出国であるトリニダード・トバゴ(69%)、ベネズエラ(63%)、コロンビア(49%)、ガイアナ(45%)で輸出が増大した。22年に輸入価格が輸出価格よりも上昇したことから、LAC33か国のうち、25か国で交易条件が悪化した。一方で、エネルギー資源輸出額が輸入額を超える純輸出国が幾つか存在するアンデス共同体およびカリブ地域で、交易条件が21年比でそれぞれ5.2%、5.9%改善した。エネルギーや食料の純輸入国が多い中米では交易条件が8.9%悪化した。財(モノ)貿易の減