【季刊誌サンプル】新たな財政ルール作りを急ぐブラジル・ルーラ政権 浜口 伸明 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】新たな財政ルール作りを急ぐブラジル・ルーラ政権  浜口 伸明


【季刊誌サンプル】新たな財政ルール作りを急ぐブラジル・ルーラ政権

浜口 伸明

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2023年春号(No.1442)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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特集 ラテンアメリカの政治と社会を揺るがす高インフレ 新たな財政ルール作りを急ぐブラジル・ルーラ政権 浜口 伸明(神戸大学教授)

「龍」をてなずける
ブラジルでは、1980年代から1990年代にかけてブラジル経済を混沌に陥れたインフレがしばしば「龍」(Dragão)に例えられる。落ち着いていても、目覚めると手が付けられなくなる恐ろしい存在だ。間違って尾を踏めば政権がひっくり返りかねない。
そんなモンスターを手なずけるために、インフレ目標を採用しているブラジルでは、中央銀行は通貨審議会(CMN)が設定する目標値と上下幅が規定する目標圏(図1の灰色部分)にインフレ率を誘導するように、慎重に金融政策を実施することが要求される。これが「龍」を閉じ込める檻ということになる。中心的な役割を果たすのは、年間8回開催される中央銀行金融政策決定理事会(COPOM)である。この会議は、現状分析と確率モデルにより複数の金利水準でインフレの推移を予測した結果に基づいて、SELICと呼ばれる政策金利を決定する。他の条件を一定とすると、SELICを引き上げれば経済活動の水準が落ち、インフレが低下するという仕組みだが、現実には様々な外的要因が働く中で、利上げのタイミング、程度、速度を決めるのは高度な技術を必要とする。

過去の政権とインフレ
初の労働者党(PT)政権となったルーラ大統領第1~2期(2003~10年)は、積極的に金融緩和を進め、政権発足時は年率26.5%であったSELICが任期満了時に10.75%まで引き下げられた。金利低下により低中所得層を中心に国内需要が増大し、内需主導の経済成長と雇用拡大による所得分配改善の好循環が起こった。
2011年に発足した同じPTのルセーフ政権下でも金融緩和が続き、2013年初めにSELICがそれまでで最も低い7.25%となった。しかしその後ブラジル経済は困難に直面する。図1はその状況を表している。
2013年のインフレ率は長期の金融緩和の影響で目標圏の上限に張り付き、今にも飛び出そうとしていた。物価上昇を抑えるため、中央銀行は2013年後半からSELICの引き上げに方針を転換した。SELICは2015年後半に14.25%に達し、この水準が15か月続いた。高金利で景気は冷え込んだが、物価安定に効果が現れるのが遅く、図1からわかるように2015年はインフレ率が目標圏を超える状態が続いた。不況とインフレを同時にもたらした経済政策の失敗の原因は、金融引き締めに協調して、財政引き締めに政府が踏み切れなかったことにあると考えられる。財政赤字の数値を操作したことを「粉飾決算」と糾弾され、2016年8月にルセーフ大統領が国会で弾劾決議を受けて辞任する理由の一つになった。
ブラジルの財政規律の枠組みは、カルドーゾ政権期に導入された「財政責任法」(2000年)である。この法律は、連邦・州・市の各レベルで議会が承認した計画に従って、透明性と説明責任のある支出を行うこと(特に現役公務員の給与と退職者の年金を含む人件費を定められた上限に抑えること)と、債務を決められた上限(州は収入の200%、市は120%。連邦政府について明確な基準がない)以下に抑制することを求めている。しかし、ルセーフ政権期には、2014年11月以降、財政の健全性を示す財政基礎収支は赤字になり、政府総債務(DBGG)が増加しつづけた。ルセーフ政権が財政規律を逸脱していたことは明らかであった。
ルセーフ失職後を引き継いだテメル政権は財政赤字削減に取り組んだ。2016年12月に可決した憲法修正案(PEC)95号により、追加的な財政ルールとして、2036年までの20年間、財政支出の増額を前年のイ