【季刊誌サンプル】コロナ危機後のチリのインフレーション -「安定の世代」の終焉 北野 浩一 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】コロナ危機後のチリのインフレーション -「安定の世代」の終焉 北野 浩一


【季刊誌サンプル】コロナ危機後のチリのインフレーション -「安定の世代」の終焉

北野 浩一

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2023年春号(No.1442)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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特集 ラテンアメリカの政治と社会を揺るがす高インフレ コロナ危機後のチリのインフレーション -「安定の世代」の終焉 北野 浩一(アジア経済研究所 新領域研究センター主任調査研究員)

チリ中銀の30年の成果と終わりの始まり
2019年10月10日は、「中央銀行法」の制定によりチリ中央銀行が政治からの独立性を勝ち取ってから、ちょうど30年となる節目の日であった。主要現地紙の経済面には歴代の総裁らが写真付きで掲載され、1980年代まで続いた慢性的な高インフレを退治し、それから26年ものあいだインフレを一桁台に抑えることに成功した功績が称えられた(La Tercera, septiembre de 9, 2019)。それは独りよがりな自画自賛というわけでもなく、世界経済フォーラムが発表する「世界競争力報告」の「マクロ経済の安定」の項目でチリは常に上位国であり、2019年版では1位の座を獲得している(Schwab 2019)。
しかし皮肉なことに、この記念すべき日の1週間後の2019年10月18日を境に、チリは政治的・経済的な安定を失い、大きな混乱に巻き込まれていくことになる。後に「社会の暴発(estallido social)」と呼ばれる社会騒乱の勃発である(三浦 2020)。学生による地下鉄運賃の値上げ反対運動を契機に、民政移管後最大規模となる激しい社会運動に発展した。社会サービスの拡充と格差是正を求める街頭デモや公共施設の破壊は日々繰り返されて混乱は極まり、当時のピニェラ政権は国民や野党から要求が強かった新憲法制定の要求を受け入れることとなった。
さらにタイミングの悪いことに、社会不安も収まらない翌年3月からチリ経済を襲ったのが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響である。冬を迎える時期であったために、換気の悪い屋内で密集して居住する低所得層から感染は瞬く間に拡大し、5月には事実上の医療崩壊に陥っている。感染拡大を抑えるための行動制限は、軍が街頭に配備されて通行許可証をチェックする厳格なものであり、経済活動も長期にわたり停滞した。2020年のGDP変化率はマイナス6%にまで落ち込んでいる。

社会不安・コロナ危機対策とインフレ
本稿のテーマであるインフレについていえば、チリでも物価高騰が強く意識されるようになったのは、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の急上昇に見舞われた2022年3月以降である。しかしインフレの主因は、石油など輸入資源価格高というより、「社会の暴発」以降の社会・経済の混乱とコロナ禍への対策といった国内要因が大きい。
新型コロナ対策の厳しい行動制限により、小売業やレストラン等サービス業で働く中・低所得層の生活維持は非常に困難になった。政府は特に低所得層の生活支援のため、 中小企業向けの緊急融資(Fogape)の拡充や緊急家族手当(IFE)といった低所得層所得補償といった政策を打ち出した。それらに加えて、国民や野党からの強い要求に屈する形で積立年金の早期引き出しが実施された(北野 2021)。これは、個人が年金基金運用会社(AFP)に積み立ててきた資金の10%に相当する額を、退職前に引き出すことを認める制度で、2020年6月の1回目に続き、2021年4月までに合計3回実施された。野党側は、社会の暴発以後の社会運動の高まりを追い風に、軍事政権時代の象徴としての民営化された基金方式の年金制度を事実上解体させることで、2022年に予定されていた大統領・国会議員選挙運動を左派に有利に進めたい思惑もあった。対する右派のピニェラ政権側は、年金早期引き出し案成立を阻止しつつ国民の支持を取り付けるためにIFEなどの直接的な所得支援の拡充を実施したが、左派優位の政治状況のもとで、結局いずれの制度も導入される