西澤 裕介
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特集 ラテンアメリカの政治と社会を揺るがす高インフレ インフレを引き起こす構造的な問題に苦しむアルゼンチン 西澤 裕介(ジェトロ ブエノスアイレス事務所長)
アルゼンチン国家統計センサス局(INDEC)が公表した2022年のインフレ率は前年比94.8%増と、過去32年間で最高を記録した。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しデータベース(2022年10月版)で世界各国のインフレ率をみると、2022年のアルゼンチンのインフレ率は、ジンバブエ、ベネズエラ、スーダンに次いで4番目に高かった。国際的な資源価格の高騰も高インフレの要因のひとつだが、アルゼンチンは慢性的にインフレで苦しんでおり、その原因はアルゼンチンが抱える構造的な問題にある。アルゼンチンのサン・アンドレス大学が2022年10月から11月にかけて実施した世論調査によると、回答者が最も関心がある事項として挙げたのが、やはりインフレの問題だった。本稿では、最近のアルゼンチンにおけるインフレの状況やインフレの要因、企業活動への影響を見ていきたい。
公式と並行の二重為替レート
本稿では、アルゼンチンに存在する複数の対ドル為替レートにたびたび言及するので最初に説明しておきたい。企業取引や貿易代金の決済で使用されるのが公式為替レートだ。そして、市中で行われる非合法の両替で使用されるのが並行為替レートだ。この並行為替レートは「ブルーレート」と呼ばれ、一般市民にとっての対ドル為替レートはこの並行為替レートを指す。
債務問題を抱えるアルゼンチンは国際金融市場から孤立しているため、国内に流入する外貨は穀物の輸出による稼ぎが中心だ。一方、外貨の流出を防ぐために厳しい資本取引規制を導入しており、国外から投資が流入しにくい状況にある。こうした状況が慢性的な外貨不足とそれによる外貨の購入制限につながり、その結果として市中で非合法的な外貨の両替が行われている。そこに介在する為替レートが並行為替レートである。
2015年12月にマウリシオ・マクリ政権が発足すると、外貨の購入制限が解除され、両者の差はなくなったが、マクリ政権後半に外貨の購入制限が復活すると乖離幅は再び広がった。2023年3月10日時点の公式為替レートは1ドル207.96ペソ、並行為替レートは1ドル371ペソとなっており、乖離率は約80%となっている。
為替レートで変わる物価水準
では、アルゼンチンの物価はどのくらいの水準なのか。執筆者が所属するジェトロ・ブエノスアイレス事務所では2022年5月以降、ブエノスアイレス市内の物価を毎月調査しており、その結果の一部を抜粋したものが下の表だ。
表には、ペソ建て価格に加えて、公式為替レートと並行為替レートにより換算したドル建て価格を記載した。2023年1月時点の食料品と住宅、保健、教育、衣類その他の日常的な基礎的支出を賄うための所得水準である「基礎的バスケット」は、3人世帯の場