『途上国石油産業の政治経済分析』 坂口 安紀編著 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『途上国石油産業の政治経済分析』  坂口 安紀編著


世界の石油産業の担い手は国際メジャーから約40年ほど前からの国有化以降力をつけてきた国営石油企業に移ってきた。また米・欧・ソ連の政治支配が強かった時代から、国内での政府対石油公社などの石油収入配分をめぐる駆け引きの比重が大きくなってきている。本書はこういった変化を背景に、開発途上産油国6カ国を取り上げ、各地域専門家がそれぞれの国特有の要因に注目して分析したもので、ラテンアメリカからはベネズエラの石油政策とエクアドル・アマゾン地域における石油開発と社会環境紛争について述べられている。

ベネズエラについては、編者であるアジア経済研究所のベネズエラ専門家が、その石油産業の歴史と政治体制について述べた後、1976年の国有化以降90年代までの、PDVSAが一定の自立性を保持して行われてきた市場志向的石油政策と、1999年からのチャベス政権が標榜するボリバル革命推進のための財源、担い手に変貌させられたPDVSAに象徴される国家志向的石油政策を対比して解説している。

エクアドル(新木秀和神奈川大学准教授)については、石油開発が地域環境や住民生活に与える影響に着目し、同国アマゾン地域で発生した外国石油企業と先住民を含む住民との抗争、環境紛争や石油の利益分配の変化を紹介している。

著編者はいずれも石油の専門家ではなく、本書は石油専門家による研究と補完関係な位置づけを目指したものとして編まれたと断っているが、まさしく石油独特の特質と問題分析を交えた研究と合わせ読むと一層深く理解出来よう。

(アジア経済研究所叢書6岩波書店2010年3月225頁4400円+税)