会社勤めのかたわら休暇を活用して世界各地を旅し、面白い旅行記と映像を出版社やテレビ局に持ち込んでいる著者が、パートナーの写真家とともに2006年にキューバを二週間訪れたはちゃめちゃな旅の記録。切り詰めた旅の中で、街角で知り合った自転車版人力車のドライバーと彼の現在と前の妻、それらとの間の子供たち、画家と駆け出し女優のカップルとその多彩な友人や家族たちなどとの交流を通じて、旺盛な好奇心のまま、キューバ人の日常生活、家庭環境と家族との関係、奴隷として連れてこられた先祖が持ち込んだアフリカ由来の宗教儀礼体験、非兌換ペソでの買い物や外食などなど、短い滞在期間ながら様々な、濃密な体験をする。家族関係のあり方、友人や家族との親愛の触れ合い表現、支払いはお金をもつものが当然に負担するという発想が、著者のような“持てる者”へのたかりと紙一重ながら、なぜか憎めないあっけらかんとした今の生活を楽しむ国民性などが、生き生きと描写されている。
疾風の如く通り過ぎた旅での体験と見方で、これがキューバ人の生活だということではないが、一面とはいえ積極的に庶民の中に入り込んだ旅の記録として面白い。
(幻冬舎 文庫2010年7月363頁648円+税)