『曲がった鋤』 イタマール・ヴィエイラ・ジュニオール - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『曲がった鋤』  イタマール・ヴィエイラ・ジュニオール


東北ブラジルのバイーア州都サルヴァドールから約400km奥地にある白人不在地主所有の大農場で働く逃亡奴隷の子孫の一家の物語。父親は農場主、管理人と農民達に信頼され土着宗教の治癒師も務めるリーダー的な存在だったが、長女ビビアーナと次女ベロニージャが悪ふざけで一人が声を失い、長じて農場に引っ越して来た従兄セヴェーロを奪い合いビビアーナが結婚する。やがてセヴェーロ達は農場での境遇に疑問をもち、農場の労働条件の改善と改革を訴えて農民たちに社会格差と人種偏見に気がつくよう啓発に取り組むようになったが、農場主側の反撃により、労働者を抗議に動員したセヴェーロは惨殺され、農場は悲劇に襲われる。

著者はサルヴァドールに生まれ、バイーア連邦大学でアフリカ民族学で学位を取り、INCRA(国立植民農地改革院)で10年以上の勤務経験を基に奴隷制度の負の資産を描いた本書を執筆し、ポルトガル、ブラジルで数々の文学賞を受賞したブラジル文学の新たな潮流を創った注目の作家。

〔桜井 敏浩〕

(武田千香・江口佳子訳 水声社 2022年12月326頁 3,000円+税 ISBN978-4-8010-0684-3 )