2007年からチリ南部プエルト・モンから東北へ65km入った山間のログ・キャビンに移り住む、世界に山岳・野生動物を追ってきた写真家がカラー写真多数とともに綴るパタゴニア賛歌。
南緯40度から南極と海を隔ててアンデス山脈が南氷洋に沈むホーン岬に至る、チリとアルゼンチンにまたがる広大なパタゴニアを、森と湖が豊かで、先住民マプーチェ族が住み、1万4000年前にモンゴロイドがグレート・ジャーニーの果てに辿り着いた南北アメリカ最古の住居跡にある北西部、南米のスイスといわれるスキー場でも名高い保養地であるアルゼンチンのバリローチェや火山と温泉に恵まれ、大西洋岸に出ればクジラをはじめアザラシやペンギンを見るに絶好なバルデス半島のある北東部、大きな蟹が取れる太平洋岸の海と絶景パイネ国立公園にあって、19世紀半ばにフランス人がパタゴニア王国の建国を主張し今でもその末裔がフランスで国王を自称し、またつい近年までアルゼンチンとチリ間に領土紛争があって1979年にローマ教皇が調停を行った花と虹も美しい南西部、著者が世界で最も心惹かれる山という南緯49度のフィッツロイ(3405m)、氷上トレッキングを楽しみ、湖への巨大な氷塊落下を見ることが出来るペリト・モレノ氷河もある強風と氷河の南東部、そして南極大陸まで1000kmの南緯55度の世界最南端の都市ウシュアイアがあり、自然を敬い食料などを貯めることなく心の声にいつも敏感であれと説く、今はほぼ絶滅しているヤーガン族等の先住民の最後の二人に会った最南部と、地域に分けてその美しい大自然とそこに住む人々の生活を紹介している。
移り住んでみてはじめて見えてきた、これまで見たこともない絶景を、著者の強いパタゴニアへの思い入れのこもった紀行文と数多くの実に魅力的な写真で読者にあまねく見せてくれる。
(中央公論新社(中公新書)2011年1月182頁940円+税)