『文学の心で人類学を生きる −南北アメリカ生活から帰国まで十六年』 前山 隆 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『文学の心で人類学を生きる −南北アメリカ生活から帰国まで十六年』  前山 隆 


ブラジル日系人のエスニシティ、異文化接触について多くの著作がある著者の、研究者としての人生を綴った自伝。それぞれ異質な文化と歴史的背景をもつ3カ国、静岡大学で哲学を学んでいるうちにレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』に触発されて独学でポルトガル語を学び、ブラジルへ渡航して社会学を学ぶ。テキサス大学、コーネル大学、サンパウロ大学の共同研究プロジェクト「現代複合社会における文化変容」の調査員として参加し、その経験と人脈から米国へ留学し、テキサス、コーネル大学では文化人類学を学び、学位論文執筆のためにブラジルに調査のため戻り、以後ブラジル、日本、米国での教職と研究に専念した16年半の記録である。特にブラジルでの活動については、1961〜67年のサンパウロ大学での給費留学生活、フィールドに出てのブラジル各地の調査旅行、71〜73年の地方中都市調査、そして74〜77年の軍政下サンパウロ州立大学での教師生活、人文科学研究所(人文研)での活動を経て帰国するまでが詳述されている。

この間、ブラジルの日系コロニアの文学運動に積極参加し、同人誌『コロニア文学』の創刊から関わり、ブラジルの日系エスニック集団が育成した在野の研究施設であるサンパウロ人文研では、『コロニア小説選集』の編纂、第一回移民で戦前邦字紙を発行していた香山六郎の自伝の編纂なども中心になって行い、帰国後はブラジル日系人のエスニシティ、アイデンティティなどを論じた研究を著すなど、日系社会研究者としての業績は大きい。向学心、研究への熱情、そのための行動力、さまざまな社会現象への旺盛な知的好奇心が、読む者にもひしひしと感じさせ研究人生の集大成である。

(御茶の水書房2010年11月313頁2800円+税)