『ロビンソンの足あと −10年かけて漂流記の家を発見するまで』 高橋 大輔 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ロビンソンの足あと −10年かけて漂流記の家を発見するまで』  高橋 大輔


絶海の孤島に漂着し、孤独と闘いつつ島で得られる物を利用して生活を切り開きいた船乗りのロビンソン・クルーソーを主人公にした、ダニエル・デフォーの『ロビンソン漂流記』(1719年出版)の舞台は、カリブ海のオリノコ河口からそう遠くない島であったが〔注〕、ロビンソンのモデルになったのはアレクサンダー・セルカークという、スコットランド人の私略(海賊)船の航海士であった。彼は船長と対立して、銃とわずかな日用品とともに、今はチリ領ファン・フェルナンデス諸島の島でロビンソン・クルーソー島と名付けられている南太平洋の孤島に、一人4年4ヶ月もの間生き抜いた後、キャプテン・ロジャースの船に救出され、その体験がロジャースの『世界巡航記』(1712年)や、キャプテン・クックの『南洋および世界周航記』(1712年)などで紹介され、当時大きな話題になった。

神話・伝承を尋ねて探検し著作を著してきた著者が、実在したロビンソン・クルーソーの住んだ跡を発見したいと、米国探検家クラブやナショナルジオグラフィック協会(本部ワシントンDC)の支援を取り付け、チリ、米国の地理学者や考古学者等とチームを編成し、散々苦労して政府の発掘調査許可を取り付ける。チリ西方約670kmの島を訪れ、歴史文献資料や島の古老の話などから石積みの小住居跡こそセルカークの住んでいた家と見当を付け、発掘を開始する。石積みや出土した焼き物の破片はスペイン人入植者のものと判り、調査は失敗に終わると絶望視された時に、スペイン人の住んだ床の下に炉の跡と柱穴、航海士であったセルカーグが使っていたと思われる航海用のディバイダ(割りコンパス)の先金属片が出てきて、ついにロビンソン・クルーソーのモデルが使っていた住居跡を見つけたのである。

一日本青年が10年にわたっての粘り強い努力によって、歴史の一コマを実証するまでのドキュメンタリー。

〔注〕『ロビンソン・クルーソー漂流記』が、デフォー自身のオリ

ノコ下流地帯への植民計画や、英国のベネズエラ東部地帯へ

の勢力圏拡大の意図もあって書かれたことは、『黄金郷伝

説』山田篤美(中公新書)172頁〜 に詳しい。

http://www.latin-america.jp/modules/bluesbb/thread.php?thr=147&sty=1&num=l999#p162

(日経ナショナルジオグラフィック社発行・日経BP出版センター発売2010年4月222頁1600円+税)