『インカ帝国の成立 −先スペイン期アンデスの社会動態と構造』 渡部 森哉 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『インカ帝国の成立 −先スペイン期アンデスの社会動態と構造』 渡部 森哉


気鋭の若手アンデス考古学者による、インカ帝国とそれに先立つ先スペイン期のアンデス諸社会の社会動態と構造の相互関係の、人類学的観点からの考察。形成期後期前半(約2200年前)の北部ペルーを対象として、植民地時代の歴史史料と考古学データを基に、インカに先行した諸社会の興亡の軌跡を解明することから始めて、最後に繁栄したインカの社会動態の源は、地方社会の変化を経て出来た既存の枠組みを踏襲したものではなく、全域に独自の支配原理を当てはめたものであること、なぜインカが急速に拡大を成し遂げたかを検証している。

さらに、インカ王権の構造を首都のクスコで生じた変化と、先インカ期の諸社会の考古学データ等から得られた構造モデルを基に分析している。紀元前800〜500年に当たる形成期後期前半の神殿であるクントゥル・ワシ(ペルー北部)、ティワナク(ティティカカ湖南岸。紀元後600〜1200年)の構造分析と、クロニカ(征服・植民地時代の記録文書)分析により、インカ王権の構造を先インカ期の構造モデルを援用することによって解読し、それらと図像分析、インカの構造の属性、規則から、それらを説明出来るモデルを構築し説明している。

そして、これらの議論を統合して先スペイン期アンデスの社会動態モデルを構築し、インカの広範囲にわたる支配権を確立した政治組織でも共通する原理、背景を解説している。

アンデス文明史を大きな流れとしてみれば、中央集権的社会、王権の入れ替わりであったのではなく、中央集権的社会が出現する時期とそうでない時期が繰り返し現れる、振り子が次第に振幅を広げていった如き特徴を挙げている。これまでの自身による調査研究成果を含め、インカ帝国の成立を、歴史、考古学的に解明した労作である。

(春風社(南山大学学術叢書)2010年3月501頁7619円+税)