1492年といえば、コロンブスの最初の航海でアメリカ大陸に到達した年であるが、本書はそれが地球規模で見た場合、当時の欧州=旧世界の人々が単に一つの大陸を発見したというだけでは済まない、人類の長い歴史と文化に大転換をもたらした出来事であったとの視点から論述した、挑戦的な世界史試論である。現在我々の住む世界の大部分、世界史の潮目の変化は1492年に始まった。南北アメリカ大陸を旧大陸によるキリスト教布教と移民送り込み先に開放することで、新大陸のみならず世界の各地域の地図と文明分布を大幅に書き換え、旧大陸自身もそれまで先行していた中国、インド文明と、またイスラム勢力の拡大により頭打ちであったキリスト教圏も対等に渡り合えるようになり、劇的に変わったのである。
本書は、これらの大変容を、1491年までの旧大陸での世界概観から始め、スペインに踏みとどまっていたイスラム教徒の西ヨーロッパからの放逐、他方イスラム教のアフリカでの苦闘、地中海世界と対イスラム戦に勝利したスペインからのユダヤ人の追放、北イタリアで頂点に達したルネサンス文化とそれまでのキリスト教体制が変容と改革を呼び起こす姿を見た後、目をロシアに転じて急速な周辺勢力圏の拡大、カトリックに対するに東方正教会の対決、シベリア進出などにも言及する。さらに1492年当時の情勢、イベリア半島最後のイスラム王国グラナダを陥落させた直後のフェルナンド王、イサベル女王の説得と、未知の遠洋航海を可能にした航海術や船と用品の進歩によるところもあったコロンブス新大陸上陸を概観し、その時期に中国、日本、朝鮮の姿、インドとペルシャの交易にみるインド洋沿海部とポルトガル船団のインド洋進出が始まったことを見る。そして、コロンブスの到達をきっかけに多くの彼のライバル達が新大陸に殺到し、カリブ海諸島、アステカとインカの征服に至るのである。地上世界で長く各地に分岐し個々に発達していた生命体とその営みが、1942年を契機に異常な突然さで交流が可能になった。1942年は世界は終末迎えるといったキリスト教圏の予言者がいたが、それはある意味では正しかったことになる。
「歴史に直線コースはない」、アジアの東端から始め、インド洋を渡って東アフリカ、現在は中近東と呼ばれる地域を通りロシアへ、地中海に戻って新大陸のメソアメリカとアンデス文明に触れ、さらにコロンブスの大航海の発端となった1492年のグラナダからサハラ砂漠を横切り西アフリカへ、また地中海と北イタリアのルネサンス文明を見た後、大西洋を渡りコロンブスが目指した中国とアステカ、インカの征服をも見るという想像上の旅によって、読者とともに歴史の転換をみようという壮大なグローバル・ヒストリーである。
(青土社 2010年11月 408頁 2800円+税)
『ラテンアメリカ時報』2011年春号(No.1394)より