著者(西南学院大学教授)は、自由貿易原理の発展途上国への無差別適用と外資依存の輸出依存開発戦略の一般化を批判する立場を採っていることを明らかにし、途上国の一次産品問題の市場原理主義のもたらす諸問題を明らかにするという視点から本書を纏めている。
まず途上国経済が一次産品輸出に依存していると問題をあらためてコーヒー、バナナ、綿花を例に論じ、後半では一次産品問題を新自由主義グローバリゼーションとの広い関わりの中で位置づけるために、ジャマイカのボーキサイトと砂糖、メキシコの石油と工業製品輸出、メキシコのNAFTA 加盟で生じた米国とのトウモロコシ農業、そして終章では一次産品依存から脱出戦略として採られた輸入代替工業化戦略にみるラテンアメリカとアジアの比較、アジアの国家主導型開発戦略における市場原理主義に向かうラテンアメリカ化の懸念を論じ、1997年のアジア通貨危機の輸出主導型と輸入代替型工業化の収斂、日本の90 年代の「失われた10年」の原因究明とラテンアメリカからの教訓を引き出すことを試みている。
米国の自由貿易推進策の利己性、コーヒーにみる近年の生産、流通、消費の多様化、小規模生産農家の疲弊を通じて、貿易自由化の否定的側面をあぶり出した労作であるが、著者のいう「地獄へ向かう」経済・貿易自由化が無かりせば、途上国農業は天国に留まれるといえるか?例えば近代農法を取り入れて、市場ニーズに対応して生産・出荷を計画している農業がラテンアメリカの各地で見られるように、自由化のプラス面もあったのではないか?との疑問が読後感として残る。
(明石書店 2010年3月 428頁 3800円+税)
『ラテンアメリカ時報』2011年春号(No.1394)より