スペインのメキシコ植民地化が拡大する中で、1546年にサカテカスに、1552年にはグァナファトに一大銀鉱山が発見された。これにより中部サカテカスとヌエバ・エスパーニャ副王領の首都ともいうべきメキシコ市を結ぶ街道の人、物の往来、なかんずく銀の輸送が飛躍的に増大し「銀街道」と呼ばれるようになった。現在は長距離バスなら約8時間で行ける両市間だが、著者はメキシコ市の歴史を建造物を中心に概観した後に発ち、イエズス会の布教村であったテポツォトラン、マインチェの再婚相手のスペイン兵士の収税領地であったヒトテペックと先住民オトミ族出身の富豪コニンの故郷ノパラ村、マリンチェの邸宅があったといわれ、銀の関所があったサン・ファン・デル・リオ、コニンが住み尼僧院などを寄進したケレタロ、先住民との闘いの前線であり、後に要塞が築かれたサン・ミゲル、途中廃棄された銀鉱山があり鉱脈が町を走るサン・ルイス・デ・ラ・パス、大銀山が出現し銀街道をより重要にしたグァナファト、チチメカ族討伐の基地だったサン・フェリペ、先住民グアチチル族との繋争の地であったオフエロスと北西へ遡上し、当時の最新銀抽出法であるアマルガム法によって盛んに銀が採掘、精錬されたサカテカスまで、銀街道の起点と終点、途中の主要な街を訪れる。
著者は『メキシコ歴史紀行−コンキスタ・征服の十字架』(明石書店 2005年)という、メキシコ市周辺の教会美術紀行を出していて、メキシコ史と教会美術に造詣が深く、読者は共に各所でその町の歴史を聞き、建造物やその素晴らしい装飾を見ながら「銀街道」を旅することが出来る。写真も多く載せられているが、カラーでないのが残念である。
(未知谷 2010年6月 317頁 3000円+税)
『ラテンアメリカ時報』2011年春号(No.1394)より