著者は石川島播磨重工業(現IHI)で32年間海外業務に就いたが、うち2年間をレシーフェでのポルトガル語研修とリオデジャネイロでの同社の合弁事業ISHIBRAS造船所での研修を体験した。2005年に退職後、港湾設備関連会社を立ち上げるとともに、自分史の一部としてかつて滞在したブラジルの実情と南米の素描をあらためて多くの文献を読み解き纏めたものである。
冒頭の「南アメリカなるもの」では、多様な自然環境によりいくつもの顔をもつ大陸として、長い植民地時代を経て独立し、ラテンの血を主に多くの人種と言語、文化と社会の多様性をもっていることを概説している。次いで「ブラジル、その日々」でポルトガル語勉強の体験、住んでみて見えてくるブラジル人の気質、人々の人生の一部になっているサッカーへの情熱、日系社会の状況と、レシーフェ、リオ、サンパウロ、サルバドール、ポルトアレグレ、ベロオリゾンテ、ブラジリア、マナウスの主要都市を紹介し、著者なりに秩序ある混乱の国ブラジルを素描している。後半の「南アメリカ諸国紀行」は、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、パラグアイ、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ各国の歴史、文化、現状とそれぞれの問題などを詳しく解説している。
南アメリカの知られざる側面を日本で紹介したいと、丹念にラテンアメリカ関係図書(2005年までに発行されたもの)を読破し、整理したもので、南米の概要を知るための入門書としては分かりやすくよく網羅している。
(東洋出版2010年10月290頁1600円+税)